劇場公開日 2021年10月15日

「脇役たちの躍動が見どころ。」燃えよ剣 すっかんさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5脇役たちの躍動が見どころ。

2021年10月17日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

○作品全体
『燃えよ剣』は、脇役が躍動する作品だ。幕末という時代の転換点において、本作の主人公・土方歳三が属する幕府側の勢力は新時代を迎えるにあたり錦の御旗を持たぬ脇役であるし、その幕府側に属する新選組は幕府側においても末端の浪士集団で、大きな時代の潮流に振り回される脇役でしかない。その集団に属する土方は、主人公でありながら「副長」というサブポジションに座っている。本作はその脇役たる土方を主役に据えることによって、時代の脇役達が持った信念を画面いっぱいに溢れさせていた。

物語の主軸が幕末という時代であるため土台には佐幕派と倒幕派の対立があるのだが、駆け足な物語というよりテンポの良い物語だと感じる。脇役・土方が回顧するようにして時代を追いかけていることが、そうさせるのだと思う。主軸とは違う部分で歩んできた土方の一生とすることで、その時代に生きている人々の感情にスポットを当てている。
土方の百姓時代から語られるのも、土方が政治の端に居ることを印象づける。京都へ上る前の「百姓臭い歩き方」を矯正したり、近藤勇が土方くんと呼ぶシーンはコメディチックで近藤と土方の距離感が伝わってくるシーンだが、一方で一百姓から武士という主役級へと変化しようと足掻く姿のようにも感じて、二人の青年の心情に寄り添ったシーンでもあった。
新選組に属してからの土方は脇役として時代に、そして周りの人物に振り回される。芹沢鴨をはじめ、朝廷に執拗に近づく近藤やもうひとりの副長・山南敬介の離反。局中法度作成の中心人物ではあるが「形が悪い」組織を改めるために動く土方の姿は、脇役だからこそ担わされる東奔西走の苦悩が濃く写った。
京都を去ってからの土方は時代の移ろいとともに舞台を北へ移していく。錦旗を持たない旧幕軍で一人の指揮官として戦う土方には武士として戦う矜持だけが残る。自身への手向けのように独り突撃し、死するラストは、シンプルな構図なだけに脇役武士・土方が主役となる数少ないシーンだ。しかし無力に散っていく姿には脇役としての宿命もあって、土方の生き様のラストを飾るにふさわしいものだった。

一方で土方を主役に立たせる脇役も居た。お雪だ。
土方とお雪は新選組と長州藩士の元妻という関係性があるが、それをも超えた恋仲として、時代とは別に二人だけの世界も存在している。そこでは土方は主役であり、新選組副長・土方歳三という肩書が薄くなる。脇役としての役割から開放された土方を写すことによって、人間・土方歳三としての色味も作品に醸し出すことができていた。

その他にも会津家訓に苦悩する松平容保や病と戦う沖田総司、影で暗躍する山崎烝といった登場人物たちも脇役として躍動する姿が印象的だった。

一人ひとりの脇役、それぞれが自らの立ち位置に矜持を持ち、もがき戦う。その姿が苦しくもあり、力強くもあった。この情景を作り出すことができるのは、おそらく脇役だからこそ、だろう。

○カメラワークとか
・ファーストカットとラストカットが同一。無人のカットから始まり、斃れた土方が上手に運ばれて終わる。このファーストカットとラストカットだけは、時代や立ち位置を完全に置き去りにして土方という人間だけを映していた。真俯瞰のカットだから、ファーストカットとラストカットを合わせるからこそ作ることができる演出だった。

・一本道の舞台が多い。上述した百姓臭い歩き方を直すシーンや芹沢を討ちに行く前に近藤・土方・沖田が組手をするシーンは長い外廊下が舞台。まっすぐと前へ進む心象風景であったり、その途中で足踏みをする状況描写として機能していた。
あとは近藤が降伏するシーン。終わりを感じさせる先の見えない丘へ、一本道を上がっていく近藤。シーン終わりはカメラを引いて、そことは別の道があることを映す。近藤が登っていく道と、そことは逸れるもう一つの道。土方の道だ。

・お雪の元へ服を返しにくる土方。土方を上手に、お雪を下手に横位置で映す。次のカットで時間経過。次に会う日に飛んだのだろうか、夜になっていてカメラはイマジナリーラインを超える。上手にお雪、下手に土方。マッチカットっぽく写していた。親睦を深める描写としての時間経過はわかるが、日にちを飛ばしてイマジナリーラインを超えたように映すマッチカットは、正直見たことがないかも。関係性の進展、という意味で汲み取った。
土方とお雪が嘘をついていたと互いに話すシーンも、本作では珍しいど真ん中にアップショットで切り返すカット割り。土方とお雪のシーンは演出的にもカメラワークが独特で、別世界のように写していたように感じる。

○その他
・アクションの骨太さに目をみはる。主演・岡田准一自らが殺陣を作っているらしい土方のアクションには無骨さがよく出てる。足払いがあったり、刀の柄を使って殴っていたり。ありがちな一太刀でバッサリ、みたいなアクションもほとんどなかった。池田屋で不逞浪士が団子になって新選組と立ち向かう姿とかも新鮮だった。

・個人的には土方の「百姓臭い歩き方」がMVP(?)。「鬼の副長」という冷徹さが染み付いた土方というキャラクターに無骨さや野暮ったい田舎臭さが滲み出てて、キャラクター付けとしても良く出来てる。小学生くらいにこの作品見てたら真似してただろうなあ…。

すっかん