劇場公開日 2020年1月25日

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「私たちに伝え教えてくれる為に、彼らは生き続ける」彼らは生きていた 近大さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0私たちに伝え教えてくれる為に、彼らは生き続ける

2020年8月18日
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鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

泣ける

怖い

興奮

第二次世界大戦の映像や音声は多く残されているが、第一次世界大戦となると、そう簡単にお目に掛かる機会は無い。それだけで見る価値あり。
イギリスの帝国戦争博物館に残されている第一次世界大戦の貴重な記録映像を基に、ピーター・ジャクソンが再構築・再構成したドキュメンタリー。
だが、ただそれだけじゃない。

第一次世界大戦は今から100年も前なので、モノクロで映像は所々劣化。退役軍人のインタビュー音声は残されているが、フィルム自体の音源はナシ。
それは当然で、勿論どれも貴重なのだが、作品自体はちと物静かな単なる“記録映像”。
が、それが驚くべき変化を遂げる。

映像がモノクロからカラー化!
音も付く。
2200時間にも及ぶ記録映像の中から、ピージャクが最新デジタル技術を駆使して、修復・着色。音声や効果音も追加。
製作~完成までに3年。ある意味、『ロード・オブ・ザ・リング』に匹敵する途方もない作業。
が、その甲斐あって、その時代が鮮烈にそのまま蘇ったような、圧倒的な臨場感。

まず、最初のモノクロ・シーン。
戦争に次々志願する若者たち。
国の為に! 戦う事こそ栄誉!
入隊して厳しい訓練。
“戦争”に感化されていく…。
どの国も同じ。

カラー化は主に戦地に赴いてから。
ここで目を引くは、兵士たち。
他愛ないお喋りしたり、笑い合ったり、食事をしたり、排泄中思わぬ“事件”が起きたり…。
今の我々と同じ。
彼らも一人一人の若者なのだ。
仕事内容が違うだけ。兵士の仕事。それは…
それがまた胸重苦しくなる。
もし、戦争なんか無ければ…。

カラー化した事により、戦地の生々しさが恐ろしいほどに。
あちこちに死体、頭を撃たれ身体を撃たれ、シラミやネズミがはい回り、腐乱した死体…。
サム・メンデス監督の『1917』はかなりリアルに戦地を創造。
しかしこの映像は“リアル”ではなく、“本物”なのだ。

そして、戦場。
着色・着音しているとは言え、苛酷で熾烈。
空高くまで爆発する地雷に背筋が凍った。
爆発音、飛び交う銃弾の中、戦場を駆け、次々倒れていく…。
戦争は今も何処かで続いている。
100年も前も、その遥か前も、そして今も、人間は同じ過ちの繰り返し。
人間の歴史は戦争の歴史。人間がこの世から居なくならない限り、戦争も絶対無くならない。

かと言って、人間はただ愚かなだけじゃないと信じている。
ピージャクやサム・メンデスの二世代前が第一次大戦。
私たちの二世代前が第二次大戦。
私たちは戦争経験が無くとも、私たちの身体に、戦争を経験した血が流れ続けている。
が、不安なのはこれからだ。
私たちの一世代後、二世代後、三世代後…。
戦争を経験した血が薄れ、戦争の記憶がどんどん風化していく。
それこそ戦争をゲームでしか知らない世代が、ゲーム感覚でまた戦争を始める。
バカみたいな例えかもしれないが、絶対あり得ないとは言い切れない。
その為に…

彼らが居る。
私たちの為に。
これから産まれてくる未来の為に。
二度とこんな過ちを犯してならないと、伝え教えてくれる為に、彼らは私たちの記憶と記録の中に生き続けるーーー。

近大