「意気地なしとして生きるくらいなら。」彼らは生きていた bloodtrailさんの映画レビュー(感想・評価)
意気地なしとして生きるくらいなら。
西部戦線後期の貴重な記録フィルムは、第一次大戦の塹壕戦の凄惨な様を、現実のものとして私たちに伝えてくれます。この戦争は、自動火器、すなわち機関銃の普及により長引いたと言っても過言ではありません。鉄条網で攻撃側の脚を止め機関銃で掃射する。犠牲を回避するために双方が塹壕を掘り篭る。戦線は硬直し長期化し、塹壕の長さは長期化に比例し延長して行きます。塹壕を頭上から攻撃する為に、野砲は榴弾を用い、連射性と機動性より射程距離を重視する。鉄条網を突破するために戦車が登場する。
第一次大戦のリアルは、Discovery channel でも見てましたが、これほどまでに生々しいものは、私は初めてでした。
意気地なしと思われるのは嫌だと年齢を誤魔化し志願兵となる少年。短期間の訓練で戦地へ。前線の塹壕は悪夢以下の地獄。戦闘と後方での休息。総突撃する旅団。捕虜との交流。終戦となる11時を境に、鳴り止む野砲の音。帰国。誰からも感謝されない冷たい現実。
帰還兵の肉声による語りが教えてくれる戦場の現実と、デジタルで色を取り戻したフィルムは、命令で殺し合いをしただけの第一次大戦の馬鹿馬鹿しさの記録。変色した死体や、土中から突き出た手、埋葬される遺体袋は強烈な印象として脳裏に焼き付きます。BL 8インチ榴弾砲 Mk.6の重量感、地雷の爆発力には圧倒されます。
They shall not grow old
歳を誤魔化してまで戦地へ赴き、死んで行った若者達への鎮魂歌。そんなドキュメンタリーでしたが、構成がうま過ぎて、ストーリーの有る映画を見ている様でした。
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取りあえずミリオタ追記(6/9)。
イギリスは戦車の母国。硬直した塹壕戦を打開するために第一次大戦に実践投入されたのは、マーク I 戦車。鉄条網を突破し、塹壕を乗り越える事を目的にした車体は菱形をしており、履帯を装備していました。これが最悪の乗り物。8mほどの車体の内側には部屋が一つしかなく、独立した「エンジンルーム」を持っていないと言う、現在では想像を絶する代物。つまりは、乗員はエンジンルームの中にいる様なものでした。MarkⅣで隔壁が設けられるまで、乗員は劣悪な環境で操車しなければなりませんでした。また、操縦には4人が必要。プライマリーギヤ操作役、右セカンダリーギヤ操作役、左セカンダリーギヤ操作役、ブレーキ操作役。
フィルムに登場したのは、大型後輪が装着されていなかったので1918年に投入されたMarkⅤ。このMarkⅤでやっと操縦士が1人で済む構造になりました。
MarkⅠ~Ⅴ戦車には「雄型(Male)」と「雌型(Female)」がありました。その差は主武装の差と戦術上の役割。Maleには57mm砲2門を車体の両側面に装備しており、塹壕を乗り越える役割がありました。Femaleは7.7mm重機関銃4挺を装備し、Maleを攻撃する歩兵を掃射する役目を与えられていました。Filmに登場したのは、何故か雄型の方が多かった様な気がします。実践場面では、雄型の方が威力を発揮したため前線には雄型が集めれたと言う事なのでしょうか。
ちなみに、日本陸軍は、この菱形戦車MarkⅣ雌型を一台輸入。なめ尽くす様なリバースエンジニアリングを行い、車体構造や履帯を真似しました。MarkⅣは日本の戦車の母ともいえる存在です。