劇場公開日 2020年1月25日

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「膨大な手間をかけて再現された地獄絵図の向こうに透けて見える微かな希望が眩しい」彼らは生きていた よねさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0膨大な手間をかけて再現された地獄絵図の向こうに透けて見える微かな希望が眩しい

2020年2月3日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

あんまり見たことないロゴから始まる本作、英国の芸術プログラム”14-18NOW”と帝国戦争博物館の共同製作とのこと。モノクロな上に無音声で100年分の経年劣化で激しく傷んだ博物館所蔵の膨大な記録映像をデジタル修復の上着色。とても100年前の映像とは思えないほど鮮明で滑らかになった映像に被せられるのは、BBCが保存していたこれまた膨大な量の退役軍人のインタビュー、そして唇の動きから読み取った会話や地雷の炸裂、機銃掃射等の臨場感溢れる効果音。これはとにかく圧巻。

そしてまず驚かされるのは自ら志願して戦地へ赴く若者たちの素っ頓狂な明るさ。プロパガンダで鼓舞された愛国心と世界大戦に従軍する高揚感に背中を押されて、まだ徴兵制のない英国で年齢を詐称してまで従軍する若者達の満面の笑顔が眩しい。100年前なので風景もほぼ別世界。列をなす若者はほぼ全員洒落た帽子を被ってタバコをふかしている。6週間の訓練を経て送り込まれる最前線は地獄絵図。両軍の間に横たわるノーマンズランドに転がる無数の亡骸も容赦なく映し出す。束の間の休息で談笑した後もまだ殺し合いは続く。そしてさりげなく訪れる終戦。地獄から解放された若者達が苛まれるのは故郷に残った人々から浴びせられる罵声。そんなこともシレッと回顧する退役軍人達の声のトーンが明るいのが唯一の救い。人はこんな仕打ちも乗り越えて笑顔になれる、そんな希望が背後にあるから最後まで鑑賞出来ました。でなければ途中で吐くレベルです。

よね