劇場公開日 2024年4月27日

「期待度◎鑑賞後の満足度◎ 傑作だ。ベニーの目からは世界がどのように見えているのだろうとばかり気になった。ラストクレジットの歌はニーナ・ジモン作では?と思ったら当たりでした。」システム・クラッシャー もーさんさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0期待度◎鑑賞後の満足度◎ 傑作だ。ベニーの目からは世界がどのように見えているのだろうとばかり気になった。ラストクレジットの歌はニーナ・ジモン作では?と思ったら当たりでした。

2024年5月4日
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鑑賞方法:映画館

①まるでドキュメンタリーを見せられているような主演の女の子の演技が素晴らしい。

②「周りの人の善意と努力で良くなりました」「誰々とは心が通うようになりました」「社会に適応できるような良い子になりました」とかいったあまっちょろいヒューマンドラマにしなかったのか良かった。

③2019年製作の映画でベルリン(映画祭)で銀熊賞まで獲ったのに、日本では今年まで公開されなかったのは客が入りそうになかったからでしょうね。
確かに主人公の少女は共感を呼ぶようなキャラクターではないし(日本の様に同調圧力の強い社会では逆に言えば反感を招きそう)

④確かにベニーの様な子供が自分の家族ならもちろん自分の生活圏の中にいたとしたら、率直に言って何処かに閉じ込めておきたくなるだろう。

私の弟も統合失調症を患っていて一番酷かった時は突然殴られたり蹴られたり頭から水を掛けられたりしたので、ホント「死んでくれたら良いのに」と思ったし、精神病院に入った時は正直者ホッとした。
だから、母親のベニーに対する恐怖感も私にはよく分かる。

⑤でも本人は好きでやっている訳ではないのはわかっていたし、それはベニーも同じ。
どうしようもないのだ。
10歳の女の子にアンガーコントロールをしろなんて無理だし(大人でも難しいのに)。
しかし、秩序ある社会(システム)にどっては迷惑な存在であるのは間違いない。すぐ暴力を振るうのであれば尚更。

ソーシャルワーカーの人達や医師はみんな善意の人ばかりだし、みんな何とかベニーを社会に適応させようと努力する(言い方は悪いが調教しようとする)。
それは今後秩序ある社会の中で生きていくのなら、本人の為でもあるし社会のためでもある。

でも、調教出来ない動物がいるように、長期出来ない人間がいるかもしれない。
では、そういう人間にはどう対応したら良いのか?
システムにおけるバグのように除去する?
閉鎖病棟や精神病院に閉じ込める?隔離する?(昔なら座敷牢?)
本作も最後は欧州から隔離し南米という遠隔地に閉じ込める方法を選ばざるを得なくなる。
でも、その前にベニーは逃げ出す。走って走って飛び上がる、とベニーを閉じ込めようとする世界にヒビが入る(クラッシュする)…

⑥勿論、現実社会ではこんなことは起こらない。少女は拘束されてでも連れていかれるだろう。

人間は社会的生き物だとよく言われる。
私たちも社会の中で居場所を貰い、社会も私たちにその中で生きていく為の無言のルールを強いてくる。

たった一人で社会(誰か)のお世話にならずに生きていく能力も自信も勇気もないから、私たちは自ずと社会から弾き出されないように、弾き出されないまでも鼻つまみものにならないように、有る時は自分を殺し、自分を抑え、迎合し、生きている。
ベニーのように自分の思うまま、感じるままに振る舞い怒りわめき散らせたら、と思っても勿論、その後の事を考えると恐くて出来ない。
逆に、そういう人たちを見ると社会の秩序を乱すものとして眉をひそめ、酷い場合には排除しても仕方ないと思う。

飼い慣らされて生きていくか、飼い慣らされずに生きていくか…
まあ、そんなに深刻に考えることもないが、
答えは簡単には出ない。と言うか、答えは無いのだろう。

ただ、人間が社会的生き物であるのであれば、その社会に適応・適合するのが難しい或いはできない人間も引っ括めて私たちの生きる「社会」と見なすべきであろう。

この映画はその課題を我々に突き付けてくる。

もーさん