「システムには余白が必要だが、それを認めるとシステムでは無くなるというジレンマが存在する」システム・クラッシャー Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
システムには余白が必要だが、それを認めるとシステムでは無くなるというジレンマが存在する
2024.5.9 字幕 アップリンク京都
2019年のドイツ映画(125分、G)
攻撃的で手に負えない9歳の少女に振り回される大人たちを描いた社会派問題提起映画
監督&脚本はノラ・フィングシャイト
原題は『Systemsprenger』、英題は『System Crasher』で「攻撃的で乱暴なこども」を表す業界の隠語
物語の舞台はドイツのベルリン
幼少期にオムツを顔に押し当てられたベニー(ヘレナ・ゼンゲル)は、顔をさわられるとパニックになり、暴力的になって手に負えなくなる少女だった
母のビアンカ(リザ・ハーグマイスター)は愛情はあるものの、どう接して良いかわからずに福祉を頼っている
支援活動家のバファネ(ガブリエラ・マリア・シュマイデ)はベニーが安心して過ごせる施設を探すものの、どこでも問題を起こして追い出されてしまう
そこでバファネは、ボクシングジムでアンガーマネージメントを教えているミヒャ(アルブレヒト・シュッツ)に通行付添人を頼むことになり、何とか人並みに登校できないかと策を練ることになった
映画は、あるドキュメンタリーの撮影にて「システム・クラッシャー」なる言葉を知った監督が興味を持ち、その実態を描く作品になっている
また、ベニーの演技は多くの地域で高い評価を得ていて、演技なのかガチなのかわからないシーンも多く存在する
子ども同士の殴り合いの喧嘩などは本気で止めなければならないくらいで、ヤバいんじゃないの?というシーンが結構多い
ミヒャは「ベニーが問題を起こすたびに居場所がなくなること」を知っているのだが、ベニーはわかっていてもそれを制御できない
あらゆる検査をするものの、彼女に処方されるのは抗精神薬のリスパダールぐらいで、根本的な治療は行われていない
閉鎖病棟への入院も視野に入れているが、適応が13歳以上となっていて、ベニーに特例措置が出ることはないのである
システム・クラッシャーはベニーのことを指すのだが、映画を見ていると、システムを破壊するのは大人側のようにも思えてくる
特に母親の言動は最低の部類で、擁護のしようがないものがとても多い
一緒に住むと約束をして、翌日には反故にするし、別れを言わず、説明もせずに投げてしまう
全てを押し付けられるバファネが泣きたくなるのは、ベニーを想ってのものであり、未成年と親権という問題で過剰に守られている現状によって踏み込めないもどかしさというものもあるのだと感じた
いずれにせよ、かなり重たい内容で、ドキュメンタリーレベルの「演技」が展開される
ミヒャが距離を取れなくなるとか、それによって夫婦の関係がおかしくなるとか、関わるだけで目に見えない影響が多いのもリアルだった
このような問題は年々増えていく傾向にあって、このような行き場のない子どもを国としてどうするのかが問われている
最終的に諸外国へと投げる格好になっていて、「これで良いのか?ドイツ」というのが本作の真のメッセージなのだろう
聞こえの良い言葉で濁せても、所詮は国内ではどうにもできないと言っているのも同じなので、今後に向けての布石ができるのなら良い影響になったということになる
だが、本質的に解決は難しく、そこには未成年の親権問題が関わってくるので、ここまで放棄が進むのなら、親権剥奪まで話が進み、法的に解決できるようにならないと難しいように思えた