「1秒のフィルム」ワン・セカンド 永遠の24フレーム バラージさんの映画レビュー(感想・評価)
1秒のフィルム
『活きる』『初恋のきた道』『サンザシの樹の下で』『妻への家路』に続くチャン・イーモウ監督5度目の文革映画だが、同時にこれはフィルム映画という今やデジタル化で失われつつある映画への愛に満ちた“映画の映画”でもある。果てしなく続く悠久の砂漠のシーンなんかは、チャン・イーモウが撮影を務めたチェン・カイコー監督のデビュー作『黄色い大地』など第5世代の初期作品を思わせた。映画上映のシーンは日本で言えば戦前とか戦後すぐみたいな時代なので、さすがに僕が物心ついた頃の映画館はああではなかったが、子供のころにやってたスライドや8mmフィルムの上映会みたいなのを思い出したな。館主がフィルムをぐるっとつなげて無限ループ上映できるようにするところなんかは、イーモウお得意の大仕掛け嘘道具と思われ、なかなか面白かった。
これがデビュー作だったヒロインのリウ・ハオツンはすっかり売れっ子スターだそうで、これまでコン・リー、チャン・ツィイー、ドン・ジエ、チョウ・ドンユイ、ニー・ニーとニュー・ヒロインを次々発掘してきたチャン・イーモウの面目躍如といったところか。
ただ最後のエピローグは余計な蛇足に思え、なんか不自然な気がした。と思ったらパンフレットを読むとやはり当局の検閲でラストが悲劇的すぎると修正命令が出て追加撮影したらしい。また主人公の娘が実はすでに労働中の事故で死んでおり、そのために娘の姿をもう1度見たい主人公は娘がわずか1秒だけ映ったフィルムを探していたという重要な描写もやはり悲劇的すぎるとの理由でカットされてしまったとのこと。その2つの修正がないほうが絶対により胸に残る映画になっていたはず。まったく持って権力による検閲というのはろくなことをしない。
あと邦題はもう少しなんとかなんなかったのか。