「シャワー浴びたい」屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ 津次郎さんの映画レビュー(感想・評価)
シャワー浴びたい
ひたすらきたない。
絵面もきたないがそれ以上に欲望と生理がきたない。
醜さとおぞましさを、ことさら強調している。
狭い屋根裏部屋。壁いちめんに貼られた裸女の写真。場末の酒場で女を拾っては連れ込み暴力で脅し性衝動を果たす。アルコールとニコチンにまみれた、美学のない倒錯者。その救いのなさをえんえんと見せつける。
状況描写が続き、中弛みがある。
いうなれば主人公は特異だが、映画に特異がない印象。
だが、描写のしつこさに感化される。
かれは飲むか犯るか殺すか、しか知らない。
その衝動がこれでもかと続く。
すべて刹那の欲望にしたがっている。
背中を掻くために腕をちょん切る感じ。
犯るために殺し、殺しては切断し、ぜんぶ屋内の狭い物置に放り込む。その濛々たる死臭が、画から匂ってきそうな勢い。
獣並み──と言ったら、獣がかわいそうである。
悪魔を見た(2010)のミンシクすら清潔に思える。
これが実話とのこと。
内容上、どうしてもホラー枠に入れるしかないものの、ファティアキンとしては現実におこった凶行の再現をしたかったのだと思われる。
ただ映画がホラー枠に入ってしまうと、そこはきょうび鋭才の集まる激戦区なので、アイデアに欠けると思われてしまう。が、じっさいはホラーではない。しかしこんな強烈なものはホラーに入れるしかない──という、不利な立ち位置を持った映画だと思う。
殺人鬼を演じたJonas Dasslerは連想もできないイケ面。撮影時23歳とあった。
髪、鼻、歯、眼、体型、動作・・・原型をとどめている部位はひとつもない、たくみなメイクと演技だった。