「そんなに酷くなく安心して見られた」ある船頭の話 突貫小僧さんの映画レビュー(感想・評価)
そんなに酷くなく安心して見られた
見終わってそれほど不満の残らなかったオダギリジョー初監督作品。作品が始まって、話の流れとか、キャメラの撮影が初監督とは思えないとつい関心してしまった。元々小田切は、「映画監督」希望の役者と聞いているが、「役者」としてドラマや映画で広く活動していた。
最近は、海外の映画にも参加していて「監督」でなくて良かったのではないかと思わせる活躍ぶりであったが、それらは全て映画監督になるための「礎」「足がかり」になっているように思える。それが、血肉となっているように感じた。今回の作品おいてもキャメラのアングルやキャスティングの豪華さに引き込まれた。しかし、パンフを拝見し、撮影監督にクリストファードイルを起用しているのを知り、「どおりで…」と思った。柄本が演じたトイチの櫓で漕ぐ手慣れた仕草は良かった。舟の速さと四季折々の遠景のコントラストは、ドイル自身の技かそれともドイルが小田切に伝授した撮影技法なのかは判らないが、落ち着いた描写で描かれてている。「橋を架けること」を「時代の流れ」に見立てているところは、小田切自身の着想か。
ただし、一つの話の要所要所をフェードアウトを起用しすぎている点は、作品の流れを削いでいるように見えて、カメラ独特の技術に頼り過ぎていると思われる。
トイチが自分の将来を思い巡らし幻想的な場面を見る所や時に残酷な場面の挿入は作品を飽きさせないものにしている。小舟に乗る人と漕ぐ者の他愛もない会話は、作品に良いスパイスを与えている。特に、草笛さんの独り言のようにトイチに語りかける所、大女優ならでは。芸妓役の蒼井さんのぼやき。トイチに仁平が父親の遺体の処理の協力を願い出る所は、仁平役の永瀬の演技に妙に安心してしまうのはどうしてだろうか。物語が始まって最初、仁平の父親が客としてトイチの舟から下りる際、ある言葉(内容は忘れちゃいました。)を残して立ち去る場面とリンクしているような…。作品の作り方は丁寧だと思うし、酷い飛躍もなく最後はそうであろうという着地点で収まっている所は、個人的に不足のない作品でした。次回はどんな題材の作品を見せてくれるのでしょう。