「ただの正直者の物語」ジョーカー 太郎田中さんの映画レビュー(感想・評価)
ただの正直者の物語
見終わった直後に書いてます。
めちゃくちゃ面白くて、めちゃくちゃしんどい映画でした。
吐き気を催して立っていられなくなり、街のベンチに座りながら書いてます。
アーサーは何をすれば幸せになれたのかが全く分かりません。
今の自分は収入が少なく、会社の存続も危うい状態で街を歩くきらびやかな装飾を持つ人達に嫉妬や一方的な憎悪を持つことがあります。
そういった人間ですので映画に描かれるアーサーと自分がダブってしまい、あまりの救いのなさに「自分もそうなってしまうのではないか」と考えてしまい、吐き気を催して、立っていられなくなっています。
アーサーは一体どのポイントで何を選択すれば幸せになれたのか全く分かりません。
看板を奪われた少年達を追いかけなければ。
同僚から銃を貰うことを拒否すれば。
地下鉄で怒りに任せて銃を撃たなければ。
母親の手紙を見なければ。
自分の父に会いに行くためにオペラ会場に乗り込まなければ。
色々な選択肢があったはずで、そこで別の行動を取れたかもしれないけれどアーサーは必ず社会に溶け込めず、夢も叶えれなくなった予感がします。
結局、アーサーは自分の人生や現状、全てに対して絶望の中で狂いジョーカーとして生まれ変わります。
他の人はそんな事は思わないでしょうが、無職になり、恋も幻想で、母を失い、友人も殺し、全てを失って赤いタキシードを来てピエロのメイクを施してテレビ局に向かう姿は「幸せ」そのものに見えました。
この世界の中で自分を受け入れてくれる場所はなく、真っ当な努力をして、夢を叶えることもできず「普通」になれないアーサーがイカれるのは至極当然のことで、全てを諦めることを受け入れた瞬間のジョーカーはとても幸せそうでした。
この物語は悲劇でもありますし喜劇でもあります。
僕らが生きているこの世界も真面目な人間ほど「狂う」ようになってます。
日本は日に日に生きにくくなっていき、仕事も収入も減るが税金だけが上がっていき、普通に生きることが出来なくなっています。
人生は学生生活からの椅子取りゲームで、その椅子取りゲームに早々に座れなくなった人間はどんなに努力しても夢を叶えることが出来ず、細々と不安の中暮らしています。
引きこもりやニートだけではなく、社会人の中にも普通になれず苦しんでいる人間がいます。
映画の中ではアーサーが特別に狂ったかと思う人もいるでしょうが、彼は誰よりも真面目で自分の夢に向かって生きようとした「普通の人間」です。
あなたの周りにも必ずジョーカーが居て、これから世界中でジョーカーが生まれてきてしまう。
皆イカれて笑い出すのではないか。
そんな予感がして吐き気が止まらなくなる最高の映画でした。