「リアルな暴力性と現代への風刺」ジョーカー 陽春理樹さんの映画レビュー(感想・評価)
リアルな暴力性と現代への風刺
『メディアはこの映画に失敗して欲しかった』
そう言う声が海外ではよく聞かれるほど、この映画はあまりにもリアルに私達の日常に潜む暴力と差別を色濃く映し出しています。
純粋なアクション映画としてみていると期待外れかもしれませんが、この映画の本質はそこには無いと思われます。
この映画の賛否でよく持ち出されるのが暴力性ですが、映画中に使われる暴力シーンといえば拳銃で撃ったり、殴られたり、とありきたりなものばかりです。
しかしそれらが暴力的と言われるのは、その暴力があまりにもリアルであり、かつ私達が日頃見て見ぬ振りをしてきた他者に対する肉体的・精神攻撃の類だからです。
映画館を出た後、鑑賞した人に対して『貴方は虐げられている人か?孤独な人か?それとも加害者なのか?』と言う議題を考えさせる映画と言えるでしょう。
この映画が暴力を助長するというのは誤った考え方であり、『世の中ですでに日頃起きてる事はこういう事なのだ』と社会風刺をしているのがジョーカーと言えるでしょう。
ホアキンさんの演技も素晴らしいもので、彼の変貌や感情の移り変わりに乗せて奏でられる重々しい音楽は見るものを魅了させます。
仕事では馬鹿にされ、病気持ちという事で迫害され、手を助けるべき社会保障も崩壊し、信じていた母親の言葉も偽りで、両親が誰かも分からず、同じ淡々とした日常の中のストレスをモノに当たり、妄想したりして発散する日々。
それに少しでも共感できれば、アーサーの苦悩に心を寄せることができるでしょう。
非常にゆっくりとしたペースで上記の転落していく人生が描かれますが、人の心の拠り所が一つ…二つ…と崩れていく姿を映し出すにはピッタリでしょう。
人の心は一つのことでは折れたりはしないけども、映画ではその連続によって崩れていく心優しいアーサーの闇を垣間見ることができます。