劇場公開日 2019年10月4日

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「(マーティン・スコセッシ+ポール・バーホーベン)x社会性=本作」ジョーカー tさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0(マーティン・スコセッシ+ポール・バーホーベン)x社会性=本作

tさん
2019年10月12日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

笑える

知的

期待しすぎたせいか、そこまでガツンとは来なかった。でも傑作であることは間違いない。

本作はマーティン・スコセッシ魂が根底にあります。
従ってコメディ色が極めて強い。シリアスなシーンでもどこかバカっぽく撮られていて、そのバランス感覚はさすが。本作は、これに社会性という調味料をまぶして上手くまとめたなぁ、という印象。

「よくできている」のは間違いないのですが、逆に言えば、そんなに極端に尖ってもいない。
めちゃくちゃ評価が高い理由は、アメコミのお気楽映画目当てで来た客が、予想に反して凄いモノをみせられて沸騰しているだけだと思います。

タクシー・ドライバー。本作は、正にこれを目指した映画だと言わざるを得ない。その点は素晴らしい出来だと思いました。超絶シリアスな雰囲気でもなく、どこかバカっぽい・・・というか現実離れしている(精神異常者アーサーから見た世界が描かれているからか?)。このバカっぽい演出により、観客はハッと我に帰る。「本作はコメディですよ。だから真に受けないで下さいね!」という製作者側のサインがある。この辺り、ポール・バーホーベンっぽい。本作は目くじら立てて観る映画ではないですよー、と。オープニングタイトルとエンドタイトルの出し方とか、完全に観客をおちょくっているとしか思えない。

凄まじい暴力シーンでも、どこかホッとさせるシーンがあるので、安心して観ることができます(笑)。

スコセッシ映画と異なる点は、本作の社会的なメッセージ性の強さだと思う。本作は、民主主義という嘘に対する「怒り」を真正面からぶつけている。

勘違いして欲しくないのだが、本作は格差それ自体に対してではなくて、共感性をあまりにも失ってしまった人々に対する強い怒りが込められている。劇中、アーサーが仕切りに訴えていることは「少しでいいから俺たちに共感してくれ!」ということだけでしょ?彼は「金をくれ!」とは決して言わない。つまり彼は富も名誉も望んでいない。彼が望むのは「共感」だ。

この映画の中で本当に嫌だあなぁ・・・というかムカつく瞬間(製作者が意図的にそう撮っている)って、バスの中の母親とか、電車の中の人たちとか、市の職員、とか、いわゆる「一般常識のある、社会のコードになんの疑問も持たない人たち」の優しさのかけらもない共感のない行動なんですよね。つまり本作で批判されているのは我々なのです。

アーサーは「精神異常者にとって耐え難いのは社会の目だ」と言います。この言葉の真の意味は「精神異常者は社会の目から無視され続け、決して共感されないことが耐え難い」ということなのです。私には彼の気持ちは痛いほど分かります。本当に罪深いのは、何も知らない無頓着な一般人であることを、本作は訴えているのですね。

この人間の共感能力の低下は、社会問題となっている。なぜなら、人間同士の共感性のないところに民主主義など成立しないからだ。これは資本主義も同様だ。

つまり現代社会において、本当はもう民主主義など存在しておらず、体制を守るために多くの人が嘘をついている。これが民主主義の危機の要諦なのであり、本作はこの問題に一石を投じる。

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