「凄まじい傑作」ジョーカー MIKI-soさんの映画レビュー(感想・評価)
凄まじい傑作
本作は予告編を見て、これは凄そうだと思っていたのですが、ここまで凄いとは・・・。
ホワキン・フェニックスの演技は凄い以外の言葉が出て来ない。それ以上に演出が素晴らしく、ワンカットワンカットを実に丁寧に作っているのには驚ろかされた。
監督はハングオーバー!シリーズを手掛けたトッド・フィリップス。あんな作品の監督にここまでの才能があったのかと、驚嘆してしまった。脚本と製作まで兼ねているのだから、本作は彼の世界観その物なのだろう。
映画の狂気さは「タクシー・ドライバー」なのだが、ロバート・デニーロが出演していることで、リスペクトしていることが良く分る。舞台が70年代というのも良く似た雰囲気を引き継いでいる。
それにしてもハリウッド映画が凄いと思わせるのはその時代考証だ。走っている車や建物など、70年代の物を全て用意していて、その舞台セットは驚異的だ。これだけでも本作は相当コストの掛かった作品であることが良く分る。
物語は善良な人間だった主人公が極悪なジョーカーになっていく姿を描いているが、その過程は、今の一般的な人なら誰でもジョーカーになり得る可能性を示唆し、現在社会への警鐘を鳴らしているような気がする。
余りにも所得格差が広がり過ぎた現在、映画を観終わって外へ出ると、心優しかったアーサーがジョーカーへ変貌した現実その物になっている。消費税が増税され、平民は益々貧しくなるのに対し、特権階級が数億の賄賂を手にしても権力を手放さない姿を見ていると、まさにジョーカーが生まれ育つ土壌が出来ているような気がする。
本作を見てから、バットマンシリーズを観ると、まるで見方が変わってしまう。バッドマンは親から巨万の富を引き継いで、潤沢な費用で最新機器や最新兵器を使って、悪を退治しようとする。対するジョーカーは自分の身一つだけでバットマンと闘っているのだ。
それを考えると富の象徴であるバットマンと、貧民の象徴であるジョーカー、どちらに感情移入出来るだろうか。その対比は今のアメリカとイスラム過激派の関係のようにさえ思える。
本作は演技、演出、脚本等、映画の完成度の高さは勿論、そのテーマの深さにおいてもぜひ一見する価値のある作品であると思う。