「市子さん、一緒に住もうよ。私、お料理するよ!」よこがお KinAさんの映画レビュー(感想・評価)
市子さん、一緒に住もうよ。私、お料理するよ!
ただ普通に生きていただけなのに。
犯罪の加害者家族になってしまったら。
しかも意図せずとも、自分がその犯罪のきっかけの一つに関わってしまったら。
徐々に崩壊していく日常とささやかな幸福の描写がきつい。
髪型を変え綺麗な服を着て若い男に近づき、どこか不気味な様子が見え隠れする現在。
質素な恰好をしつつ訪問介護の仕事をこなし、相手先の家族にも仕事仲間にも慕われ婚約も決まっていた過去。
なぜ今こうなっているのか。
所々で謎に思える仕草やリンクする人の変化とは。
現在と過去を行き来して同時進行で二つの時の物語を見せ、徐々に紐解くつくりの映画は全部好き。
人間と人間の関係性に明確な正解は存在せず、親しき仲でも一方通行の想いや相いれない壁が存在することを思い知らされる。
日常に寄り添うタッチで不快指数高めの描写、先の読めない展開が面白い。
ただ、起きていることの残酷さに比べて私自身はなかなか打ちのめされず、逆に高揚することも無かった。
市子の周りの人達にそれぞれ役目があって、ただそれをそつなくこなしているだけに見えてしまったのは何故だろう。
いやそもそも物語とはそういうものだし、無意味な人がいたらいたで何だお前、となるんだけど。
辰雄がサキをチラッと見る目だけで何か暗いことが起こる予感がするし、基子が市子を見る目は特別な感情に塗れている。
誰かが何かをするたびに、「そりゃそうだろうな」と変に納得できてしまうのが逆に物足りない。
やってることを考えれば納得なんてできるはずもないのにね。
大石塔子の存在はかなり良かった。市子と大石家を繋ぐ鍵。
市子の身にふりかかる理不尽な出来事に対し、物語の整合性がありすぎている気がした。
本当は強烈な話なのに、綺麗に小さくまとまった印象が拭えない。
もう少し大きい、内容に見合うショックを受けたかった。
四足歩行のシーンとかめちゃくちゃびっくりしたけども。ちゃんと四足歩行指導者がいてちょっと笑った。
「ささやかな復讐」を遂げた、はずだった。
想定外の事実を知らされた市子の表情とその後の幻、過呼吸に酷く苦しくなる。
でも基子の気持ちを考えれば結構な復讐になっていると思うけど。大ショックでしょ。
この映画は「難を受ける側」に寄っているのに、「難を与えてしまう側」に傾いてしまう自分が少し嫌。
基子の気持ちがもう痛いほどわかるのよ。
もともと筒井真理子氏をちょっと性的な目で見がちな時があって、それに加えて市子のあの優しさと接し方。
なんかもうこんなの好きにならずにはいられない。
映画を観ていくうちにめちゃくちゃ市子に惚れていたで、戸塚の登場には基子と共にわりとショックを受けてしまった。
基子の行動は市子目線では許し難いこと、狂おしく憎く思う人だろうけど、もしかしたら私も同じこと出来ちゃうかもしれない。いや、しないけどね。
基子…!基子…!という気分になってしまったので、最後は今一度顔を見合わせて欲しかった。
会話なんてしなくても、何か「あ」とかだけでも声のやり取りが欲しかった。
自分本位でごめんね。市子さんが好きなんだよ…。
つらつら長く述べてしまったけど、ストーリー自体は面白いし全く退屈しなかった。
お前がこんなことしなければ。辰雄の話を聞きたい。この映画のキモがそこじゃないのは承知の上。
あと5時間はこの物語を見ていられる。市子さんと共に生きたい。そうだ、一緒に住まない?私、お料理するよ!今働いてるお蕎麦屋さん、どこにあるの?
わざとらしくらいのマスコミの描写にはかなり沈む。
安易なマスコミ批判は好きではないけど、現実的に報道の現状に不愉快に思うこともまた事実。
ニュースってどこに届けているんだろうね。私は最近ニュースをどう見ればいいのかわからないよ。
ターコイズに染められた髪のシーンが好き。
一回全部リセットしてこ。生き返っとこ。お口パクパクしてこ。