「少女終末旅行♥」サタンタンゴ マサシさんの映画レビュー(感想・評価)
少女終末旅行♥
1956年10月のハンガリー動乱の話。
さて、ハンガリーは9割以上マジャル人であり、東欧に於いては、数少ない単一民族国家と言えるかもしれない。だが、このマジャル人はそもそも混血色が強くとも、混血の歴史を長く保っている。その為、政治体制が変わってもナショナリズムの歴史は深いと言う事だ。唯一60万人位のロマ族が居住していて、どんな政治体制になっても虐げられた民族であったようだ。
この映画に登場する人物を使って、色々な時代の人々を表現していると思うが、はっきり言い切れない。一つだけはっきりしている事は主人公の『イリミアーシュ』が動乱後の社会主義指導者か、若しくはソ連当局ということだけ。
大きな政治体制の変化の歴史を、短い一瞬の出来事として表している。7時間以上の鑑賞になるが、何故か時間の経過が感じられない。一瞬にして彼らの生活が変化したと言った臨場感が醸し出されている。
ハンガリー動乱をソ連の横暴と西側諸国は捉えていると思う。しかし、この演出家はその点を重視して演出していると思う。何故なら、ハンガリー動乱前のハンガリー王国は、親ナチスドイツ政権のアロン政権(?)だった事を見逃していない。その親ナチス政権下でもハンガリー国民は翻弄されてきたんだと言っている。私はその点を大いに評価したい。傑作だと思う。この映画は新生ハンガリー共和国建国二年目に制作開始された話だ。ナショナリズムが謳歌されらるのは当たり前と思う。
遠近感を中央に置き、その道が真っ直ぐ伸びる。だだっ広い地平線でも、何故か狭く感じる。そして、白と黒であってもコントラストは弱い。また、雨ばかり降る憂鬱さは心に伝わって来る。
『旅芸人の記録』にリスペクトされているのは直ぐに実感するが、長回しの使い方は『旅芸人記録』から進化している。また、雨は『タルコフスキー』の『アンドレイ・リブリョフ』の『優しい雨』でもなく、『七人の侍』の『怒りの雨』でもない。生活を感じながらも憂鬱さを伴う『日本の梅雨』の様な感覚。違うのはこれから訪れる季節が冬と言う事。『続・荒野の用心棒』の泥を歩む『ジャンゴ』を思い浮かべ、その後の季節では『殺しが静かにやって来る』の雪深い道なき道を想像した。私にとってこの映画は傑作だ。
ブルックナーの交響曲第9番を聞いている様だ。
追記
『旅芸人の記録』は三回見たのだが、三回とも途中で寝てしまった。4kリストアされないものだろうか?