「観て良かった」サタンタンゴ Raspberryさんの映画レビュー(感想・評価)
観て良かった
7時間を超える上映時間が苦にならなかった。ハンガリーまで日帰り旅行したと思えばラクなもんだ。
自由のない社会主義は奴隷と野蛮をあらわす。与えられた労働とわずかな配給の環境では「働くことは負け」である。
そうして何も思考せず、目の前のことに反応するだけでは真に生きているとは言えない。風が吹くたびに吹き飛ばされる紙クズに等しい。
あたかも自分勝手に自由意志で振る舞っているようで、実は富裕層に都合よく利用されていることに全く気付かない者たちを富裕層は「奴隷」と呼ぶ。
オープニングの牛たちは好き勝手に行動しているようで、自然と同じ方向に向かっていった。
ドストエフスキーの「悪霊」を思い出す。豚の群れに入り込んで、破滅をもたらそうとしているのは何か。それは誰なのか。これらの想像力と問いを持ち続けることは、現在だからこそ必要なのかもしれない。
誰もがサタンにタンゴを踊らされる危険があるのだから。
インチキ教祖まがいのリーダーがいたとしても、そんな者の軍門に屈服するくらいなら、むしろ苦悩を享受することによって世界を生き抜きたい。そして、そのような方法でしか人間の自由は獲得できないではないか。
足の不自由なフタキだけが立ち去ったところで見事なラストだと思ったが、そこで終わりではなかった。
廃村に残った医者は、外界を断ち切るように窓に板を打ち付けた。光を失うと同時に、ここにはサタンも入り込めない。
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