「台風一家」台風家族 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
台風一家
昨年は元SMAPで現“新しい地図”の3人の主演映画が相次いで公開。
稲垣の『半世界』はしみじみさせ、香取の『凪待ち』はKO級のインパクト。
それらに比べ草彅の本作はさほど期待していなかったのだが、いやいやこちらも非常に面白かった!
葬儀屋の鈴木家。
両親が銀行強盗を起こし、2000万円と共に姿を消して10年。
財産分与と空の棺の葬儀を行う為、久し振りに集った兄弟妹。
長男、小鉄。現在無職。妻子も連れて。
次男、京介。経営者として成功者。
長女、麗奈。バツイチ。
フリーターの三男、千尋は現れず。
台風迫る中、台風のような家族争いが…。
とにかく話が面白い! つまり、脚本が面白い!
監督の構想12年のオリジナル作。
監督の市川昌秀は『箱入り息子の恋』で知られるが、何とあの“髭男爵”の元メンバーだったとか!
まだ一緒に「ヒグチカッター!」なんてやってたら、この作品は世に出てなかった筈。いやはや、良かった良かった…。
もし両親が犯罪を犯したら、その後は…?
時効や法律上の死亡確定、財産分与など知られざる法律のお勉強。小難しい法律を分かり易く。
でも、それらはあくまで味付けで、メインはクズ揃いの兄弟妹の騒動。
4人で均等に…と思いきや、小鉄が法律を盾に多く要求。
何が何でも金が欲しい小鉄。呆れる娘。
京介も麗奈も放棄しようとしたり、抗戦したり。
居ないと思っていた千尋は“見ていた”。
遺産が負債になると知るや、今度は押し付け合う。
サイテーでゲスでクズ。その様をブラック・ユーモアたっぷりに。
麗奈の現恋人や、時折挿入される「?」と思った人物も介入。
話に伏線やスパイスとして効いてくる。
ただの4兄弟妹のブラックな笑いの醜い争いに非ず。見ていく内に、別の感情も溢れ出してくる。
そもそも、何故両親は銀行強盗を…?
実は母が認知症であった事が判明。
父はその介護に追われていた。
父は頑固ではあるが、回想シーンなどで犯罪を犯すような悪い人には見えない。
では、何故…?
言うまでもない。
ある日、小鉄が事故を起こした…という電話が。
無論、詐欺。
老人を苦しめる社会悪。
全ては、子供の為に。…いや、もっと正確に言うと、小鉄の為に。
不器用で自分の子供とぶつかってばかりなのは同じ。
父と小鉄の仲は険悪。小鉄もまた娘との仲は険悪。異常に金に執着し、娘が付けようとした扇風機を蹴飛ばしたりするが、それには訳が…。
かつて役者を目指していた小鉄。父はそれに反対。
が、両親の家の古いビデオデッキの中に入っていたビデオテープには…。
それを見ている父の背中が語っている…「俺の息子が映画に出ている」。テープのラベル“俳優 鈴木小鉄”に感動。
父の名は、一鉄。
その名前からも、愛情のほどが分かる。
でも、何故両親は行方知れずのまま…?
小鉄の為なら、何故金が手元に渡らなかった…?
全てが分かり、繋がり、台風の中向かった先に…。
草彅剛がさすがに巧い。
尾野真千子、MEGUMI、中村倫也らも一癖ある巧演。
藤竜也と榊原るみは泣かせ、小鉄の娘役も印象的。
キャスト陣のやり取りがテンポあっていい。
次男が本当の罪を犯し、一時は公開も危ぶまれたが、何とか公開。だって、お蔵入りにするには惜し過ぎる!
本当に話が面白い。
練られた伏線や展開もさることながら、笑いと感動のバランスも絶妙。
少なからずツッコミ所もあるが(例えば両親の遺骨とか)、現時点で監督のキャリアベスト作だろう。
ラストは家族“全員”揃っての写真。
これは法律の話ではなく、家族の話。
台風の渦中は荒れ狂う。
でも、台風が過ぎ去れば…。
何もかも、晴れ晴れと。
まさしく、台風一家であった。