劇場公開日 2019年6月7日

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「新人2人の瑞々しさとベテランの演技が命を吹き込んだ忘れがたい傑作」町田くんの世界 よねさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0新人2人の瑞々しさとベテランの演技が命を吹き込んだ忘れがたい傑作

2019年6月10日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

どこにでもいそうな都立高校生の町田くんは3人の弟妹の面倒を見ながら身重の母の代わりに家事もこなす孝行息子なだけでなく、困っている人がいたら助けずにはいられないスーパー好青年。そんな彼のクラスには登校拒否気味の女子、猪原さんがいた。登校したもののいたたまれず保健室にいた猪原さんと出くわした町田くん。彼の胸の中で何かがパチンと弾けて・・・からの青春譚。

正直100点満点の映画ではないです。恐らく脚本に難があるのでしょうが、邦画にありがちなナラティブな独白や、言わなくてもいい冗長なセリフもある。ぶっちゃけ町内版『フォレスト・ガンプ』みたいな話で、個性的とも言い難い。しかし本作には『フォレスト〜』に滲んでいたキナ臭いポリティカルな主張が全くないので惨めで歯痒い青春あるあるの純度が極めて高い。本来ならこんな映画は知名度の高いイケメンと中条あやみ辺りが主演でいいのに、岩田剛典や高畑充希は脇に置いて主演二人に新人を抜擢という昭和なキャスティングを敢えて採用。この二人の瑞々しさが舌足らずな物語を明後日の方向にポーンと軽快に蹴り上げた感あり。町田くんに助けられたりイライラさせられたりした人々が最後に担ぐ神輿にまんまと載せられてしんみり泣かされました。都立高校という設定なのに何もかもが田舎臭い辺りもツボで、自身の中で未だグツグツ煮えたぎる思春期のルサンチマンが放つ蒸気が夕焼け空に虹を描いたかのような爽快感が忘れ難いです。

岩田&高畑のベッタベタな演技が意外にも好サポート。もっと意外なのがさすがに高校生は無理筋だと思った前田敦子。終始クールに物語を俯瞰する演技は実に見事で、来年の日本アカデミー賞の助演女優賞は彼女でいいんじゃないかと思うくらい。もっと無理筋だと思った太賀も、『桐島、部活やめるってよ』で突然退部した桐島に代わってセッターを任されプレッシャーに押しつぶされそうになる風助と肩を並べる痛々しい高校生西野を熱演。演技派の池松壮亮は一見町田くんと無関係な立ち位置のうらびれた芸能記者のキャラクターをリアルに膨らませた演技を披露。一歩間違えると箸にも棒にもかからなそうな絵空事に命を吹き込んだキャストと演出に脱帽です。そして、いきなりの大役を精一杯演じた細田佳央太、関水渚の二人に感謝しかないです。

よね