「色々と惜しい」劇場版 Fate/stay night [Heaven's Feel] III. spring song どどすこさんの映画レビュー(感想・評価)
色々と惜しい
1部、2部とほぼ完璧な流れで来て、この3部は、個人的には色々と惜しかった。
(以下、ネタバレ含みます。)
まず、良かった点。
士郎がナインライブズを投影してヘラクレスを倒すシーン。エミヤとの意識の重なり、エミヤとは別の道でアンリミテッドブレイドワークスを完成させた衛宮士郎の投影シーンの描写は作中ベストシーンだったと思います。勝負は一瞬でしたが、その静と動の迫力、静けさが返って威力に説得力を持たせており、迫真のシーンになっていました。言峰綺礼の洗礼詠唱、とてもかっこいいです。また、物語終盤、彼自信が自分の欠陥を素直に認め吐露する台詞描写は、Zeroよりもより人間味が増し、綺礼という人物が人間として欠陥品だったことへより説得力を持たせています。ある意味、最も人間らしい人間、と言えるかもしれません。彼のような歪んだ人間は、恐らく本当に現実社会にいるのです。セイバーオルタとライダーの戦い。この3章一番のバトルどころであるこの決戦シーンはさすがの仕上がり。前回のヘラクレス戦を彷彿とさせる、息をするのも忘れる程の作画が展開されます。ライダー宝具のベルレフォーンの描写は、前回以上に見ごたえありました。ラスト、イリヤが自己を犠牲にしてアンリマユを消滅させるシーン。あのシーンが何より泣けた。そして、あのシーンでイリヤの問いに士郎は生きたい、と答える。あそこで初めて士郎は自らの希望を口にしています。桜と共に生きたい、という自分の願い、弱さを3ルートにして、初めて告白するのです。従来の士郎であれば、自己を犠牲にして、抑止力へと昇華され、エミヤと同じルートをたどったことでしょう。あの告白こそが他ルートとの決別、士郎自信が救われるヘブンズフィールルートです。そして、消えゆく間際の記憶、イリヤと母アイリの邂逅。あの一瞬の1カットは涙なくして語られません。総じて、細かい部分までよく描き切っていたと思います。一瞬しか出てこないカットで心情、人物背景を描写するきめ細やかさに須藤監督のセンスが光っていました。
以下、悪かった点。
まず、原作をやっていなければわからないことが多すぎた、という点です。これは、もしかしたら、4部作にして、原作をより補完した形で丁寧に説明したほうがよかった気がします。言峰綺礼の生い立ちも駆け足で説明されますが、駆け足すぎて、重くない。原作に準えれば、もっと描写できたはずです。むしろ、3部は言峰の説明につかってもよかったぐらいです。私が感じた問題は、物語終盤でした。士郎と言峰の殴り合いのシーン。単純なシーンだけに、ここはもっと熱量、描写に力を入れてほしかった。他シーンに比べて、作画も甘く、完全に普通のシーンになってしまってます。ヒリヒリと焼け付くような2人の感情のぶつかり合いがほしかった、一番の盛り上がり所だっただけに、終盤のこのシーンで冷めてしまったという人も少なくなかったように思います。あと個人的に最も駄目だったのは、士郎が気づくと台所に立っているシーン。ここは玄関から士郎を帰らせないとだめでしょう。気づいたらいました、ではあっさりすぎて、??マークです。せっかく鍵というメタファーを用意した意味がありません。最後、士郎は自分の足で玄関をくぐって帰ってくるからこそ、ライダーに預けた鍵の意味、桜との再会が生きるのに。ライダーが何食わぬ顔でいるのも、所見の人にはわかりづらいです。セイバーオルタを倒しすところまではよかったのですが、そこからが駆け足すぎて余韻が消えてしまっていることと、原作をやっていない人は置いてけぼりを食ってしまうラスト15分ぐらいが惜しい。1部、2部と非常に丁寧に描写してきただけに、本当に惜しいです。無理矢理まとめた感があり、4部作のほうがよかったのに、と個人的には思う内容でした。
> あと個人的に最も駄目だったのは、士郎が気づくと台所に立 っているシーン。
時系列を勘違いなさってると思います。
気づいたら数年会ってなかった士郎が突然いて何食わぬ顔で弁当詰めてましたって・・・余韻も何もあったもんじゃないですよ。
蒼崎橙子の人形素体を手に入れたのは凛が時計塔に留学する直前か初期です。凛がツインテールでしたし。
鳥籠から魂を素体に移した描写がありますが士郎がすぐに目覚め日常に復帰出来たとは思えません。日本の自宅まで桜と凛で運び、魂と素体の融合と桜の精神状態が安定したのを確認した後に凛は独りで時計塔に戻ったはず。
凛が時計塔から花見の為に一時帰国し衛宮家を訪問します。大人の女性って感じで髪型や容貌からすると数年たってます。UBWエピローグ時よりも年取ってる感じがします。
桜を手伝い料理を詰めている士郎をみて、この人は昔と何も変わらず側に居て私を支えてくれている、私の罪を一緒に背負いこれからも生きていってくれる・・・と桜が感じ入ってる場面だと思います。『春はゆく』の歌詞のとおりに。
数年ぶりに会った桜を見て凛が問いかける「今、幸せ?」と。
後悔、苦悩、眠れない夜を過ごし、もしかしたら贖罪の方法がわからず罪の重圧から自殺を考えた事もあるかも知れない。そんな日々を士郎と一緒に支え合って乗り越えてきた。
そんな経験を経たからこそ、あの桜の笑顔と返事なのだと思う。