「正宗港影」イップ・マン外伝 マスターZ よしたださんの映画レビュー(感想・評価)
正宗港影
クリックして本文を読む
正統的な香港映画である。
隆盛期の香港映画が湛えていた、香港の人々の怒りが臨界点へ向かっていく期待感が、この作品にも満ち溢れている。映画では、支配者たるイギリス人は横暴、狡猾で、正義がまかり通らない社会として植民地時代の香港が描かれる。
善と悪、香港人とイギリス人、金持ち(=偽善者)と貧乏人(=正直者)という明解な二項対立は、在りし日の香港映画が繰り返し用いた構図である。
この対立の図式は、スクリーンの隅々に演出されている。
ステーキと粥・油条。阿片とヘロイン。ビールとウィスキー。といった具合に、口にするものも、ことごとくイギリス人対香港人で異なる。
この復古調の功夫映画を現代の香港の人々はどように観たのであろうか。親の世代の古臭さを感じたであろうか、それとも最近は少なくなったスタイルに新鮮さを感じただろうか。
過去の支配者であるイギリス人を、大陸の中国人、もしくは共産党と置換した香港人は多かったのではないかと、私は想像する。
映画の中で、我慢の限界に向けてひた走るイギリス支配への反感は、返還後の新しい支配者へのそれと、容易に置き換えることができたのではなかろうか。
最後のシークエンスは、傍観していた者たちが怒りを爆発させ、皆が行動し始めるという、「立ち上がる香港市民」が主題となっている。
謎の殺し屋が手を下したとは言え、一番悪くて強いやつにとどめを刺したのが主人公ではなかったことが、そのことをさらに印象付ける。
コメントする