「骨太な作品…だが、骨太すぎて物足りないところも。」キングスマン ファースト・エージェント すっかんさんの映画レビュー(感想・評価)
骨太な作品…だが、骨太すぎて物足りないところも。
○作品全体
「キングスマン」という組織にスポットが当たる第一作、その次世代の活劇を描いた第二作。いずれも「英国紳士」というレトロな題材とダイナミックでアクロバティックなアクションのコントラストが独特な作品であったが、第二作では後者に重きを置いた結果、前者の味が薄くなってしまった印象があった。
第三作目にあたる今作では「キングスマン」創世記を描くことでそのアンバランスさの打開を図ったように感じた。
第一次世界大戦時間前後に躍動した歴史上の人物が、「キングスマン」の創始者・オーランドの敵役として登場する。歴史とともに生きる英国紳士、そして「キングスマン」に箔をつける役回りだろうか。ラスプーチンをはじめ、個性的なキャラクターはこのシリーズ作品ならではといったところだが、オークランド陣営の手堅く一歩一歩追い詰めていくようなシナリオと少しミスマッチ。このミスマッチという要素が「杖や傘を武器にして戦う英国紳士」を生み出したことは確かだが、今回はやや派手さに欠けたような気がしなくもない。
「派手さがない」といえばコンラッドが戦線の最前線へ赴くシーンも同様だ。闇夜に紛れて敵塹壕へ近づき、銃声を出さずに黙して格闘する。緊張感あふれる良いシーンだったが、このシリーズで求めていたものかといわれると複雑な感情になる。
コンラッドの最期のあっけなさ、最期へたどり着くまでの映像演出的緩急は見事だった。不穏な空気を感じつつも「まさかここが死に際ではないだろう」と高をくくっていた自分の額も撃ち抜かれたような衝撃があった。
ラストの崖上のシーンも武骨なアクション。剣で、拳で、そして羊で。見ごたえあるアクションではあたが、崖上の小屋で元祖「キングスマン」の「礼節が人を作る」を見たかった、と思うのはわがままだろうか。
骨太な佳作であることは間違いない。ただ、キングスマンシリーズとして見たかったものが見られたかというと、「あれが見たかった」というものが残りすぎた。英国紳士が背負う歴史に寄り添うシナリオは面白かったが、それを意識しすぎではないか…そんなワガママな感想を抱いた。
〇カメラワークとか
・アクションシーンのアイデアやカメラ位置はやっぱり面白い。ラスプーチンのダンスを組み合わせたアクション、音楽とのシンクロも気持ちよくてかっこよかった。真俯瞰のカットもキマッてる。
・壁ぶち抜きショットが多い。潜水艦から発射されるミサイルのカットとか、場面転換のカットとか。『キック・アス』もそうだったけどマシュー・ヴォーン作品はカメラの自由度がすごく高い。親交が深いガイ・リッチー作品もそうだけど、どちらのセンスなんだろうか。
〇その他
・ラスプーチンはホント良いキャラだったなあ。実際の写真も目力が強烈だけど、それに負けず劣らず。
大晦日の夜に見たんだけど、エンドロールで流れた「1812」はなんとなく年末感があった。劇場の音響もあってちょっと感動した。クラシックに疎い自分が「第九」を勝手に連想したんだと思う。年末に聞くクラシック、良いもんなんだな…初めて知った…。