「“裏窓”事件は一面記事、“表窓”事件は三面記事…」ウーマン・イン・ザ・ウィンドウ 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
“裏窓”事件は一面記事、“表窓”事件は三面記事…
原作はスティーヴン・キングも絶賛したというベストセラー小説。
スタッフ/キャストも超一流。
おそらく製作側は、ヒッチコック映画のような大人向け上質の一級サスペンスを狙ったのだろうが…。
当初の公開が2019年。テスト試写が不評で再撮影となり、製作元の20世紀フォックスの買収劇やコロナで延びに延び、一体いつになったら公開されるんだろうと思っていた。そしたらやっと配信で。
にしても、度重なる不遇さが全てを表している。
スゲーつまんない訳ではない。でも…、映画賞どころか劇場公開してヒットしたかと問われれば…。
児童心理カウンセラーのアナ。
しかし広場恐怖症を患い、家から一歩も出る事が出来ない。
自分もカウンセラーでありながら、週に何回か自宅訪問のカウンセリングを受ける。
夫とは別居中。愛する娘は夫の元。
病気や寂しさを紛らわす為に、アルコールに溺れる毎日。
精神も不安定。
…という『ガール・オン・ザ・トレイン』風の設定。
ある日、お向かいのアパートに越してきたラッセル家。
息子のイーサン、その母親ジェーンと親しくなる。
が、アナは2人が家庭内問題の悩みや影を抱えているのを心理カウンセラーとして感じる。
そして目撃してしまう。ジェーンが殺される場を。犯人は彼女の夫アリステア…?
…というヒッチコック『裏窓』風の設定。
と言うか、間違いなく基本ストーリーは『裏窓』を狙ったサスペンス。
まあその後、犯人にバレ、ヒロイン絶体絶命!…とはならない。
電話で通報。アリステアは否定。さらに驚愕の事が。
そこに、ジェーンが。全くの別人。
一体、どういう事なのか…?
ならば、あの“ジェーン”は…?
この夫婦が結託して嘘を付いているのか…?
それとも、私が間違っているのか…?
いや、私は間違っていない。
でも…。
そこにいつまでものし掛かるアナの悲しい過去。
彼女の夫と娘は…。
これを知った時、時折の電話での会話があまりにも哀しい。同情せずにはいられない。
精神を病むのも無理はないだろう。
大抵この手の作品の主人公は、自分は間違ってないと突き進むが、牙を抜かれたかのようにおとなしくなる。
精神も安定し、正気も取り戻し…。
が、アナはある事をしようと。
その時アナは遂に決定的な証拠を発見する。自分が間違っていなかった事を。
そして彼女の前に現れた驚きの犯人は…!
クライマックスの真犯人との対峙よりヒロインが置かれた孤立無援や心理的絶望の方こそスリリング。
エイミー・アダムスがさすがの熱演。サスペンス映画というよりホラー映画並み。
先述した通りキャストが超豪華。ゲーリー・オールドマン、ジェニファー・ジェイソン・リー、アンソニー・マッキー、ジュリアン・ムーア。
監督はジョー・ライト。
しかしこれだけ並びながら、作品は良く出来たB級グルメの粋を出ていない。
おそらく原作では巧く活かされているのだろうが、映画では何処かで見た設定のサスペンスのオンパレード…。ジョー・ライトにはあまりこの手のサスペンスは向かない…?
それから、本当にオールド・タイプ。つまり、一番怪しいと思った人物が犯人じゃなく、全く意外性を付く人物が真犯人。サスペンス/ミステリーのあるあるだけど、もうちょっと捻りが欲しかったなぁ…。
命からがらの事件を経て、オチも定番。
『裏窓』は一面級だったけど、本作は三面記事…。