「人類の運命よりちっぽけな心の傷に拘る異常」アド・アストラ 徒然草枕さんの映画レビュー(感想・評価)
人類の運命よりちっぽけな心の傷に拘る異常
ざっと通して見ただけではストーリーが分からなかった。そこで再び、早送りで父と子の対話前後をチェックしてみて、唖然とさせられた。こんなバカな映画をよくも作ったものだ、と半ば信じられなかったのである。
ひと言で言えば、本作は主人公が父との再会を通じて心の傷を癒す旅を描いている。ただ、そのために犠牲にするものの大きさを考えると、ちっぽけな心の傷に拘る主人公の異常性がクローズアップされてくる。
主人公の父は数十年前、知的生命体を発見するプロジェクトのリーダーとして宇宙に飛び立つが、そのまま消息を絶ってしまう。
その後、地球には人類文明を破滅させかねないサージ電流なるものの脅威が突如襲来する。調査の結果、それは主人公の父が消息を絶った海王星付近を起点とし、父の宇宙船が原因であること、さらには父が生存していることがわかってくる。
人類存亡の危機に対し、地球軍は防衛作戦を立て、息子である主人公に父親探索の手助けをさせようとするが、不成功に終わり、作戦への適性不足が判明した主人公は計画から排除される。地球軍は父のプロジェクトの宇宙船を破壊することを決定し、原爆を搭載した宇宙船が出発することになる。
主人公はそのまま地球に帰投すれば何ら問題はないのだが、父が宇宙プロジェクトの過程で精神に異常をきたし、他の隊員を抹殺してしまったことを知り、突然、父親に会うため防衛計画の船に密航する。
防衛隊の隊員は当然、密航者を排除しようとするが、主人公は無意味に戦闘力が高いうえ、不運な事故もあり、防衛隊は全滅してしまう。
結局、父親は知的生命体探索プロジェクトの隊員全員を殺し、その息子は地球防衛隊の隊員全員を殺し、この悪魔のような殺人鬼親子が海王星の周辺で再開する。これが映画のクライマックスである。
監督はさも感動を誘うかのように、海王星の輪を背景に、主人公に「お父さんを愛している」などと告白させるが、冗談ではない。こんな悪魔の親子など、地球といわず海王星といわず、この時空間から消滅させるべきだ――観客は全員そう思うに違いない。
最後に、防衛隊を皆殺しにした主人公は地球に帰還し、「俺は子供時代に父に怒られて心を開けなくなっていたが、父と再会して妻をはじめ周りの人たちを愛しく思えるようになった」などと感慨にふけるのである。実にふざけた人間のクズとしかいいようがない。こんなクズは、即刻死刑にしたほうがいいに決まっている。