「高尚な雰囲気をたたえた内省的な作品」アド・アストラ REXさんの映画レビュー(感想・評価)
高尚な雰囲気をたたえた内省的な作品
プロットや予告編を見ると本編にはない映像が多々あることから、だいぶ余計な場面を削ぎ落としたのだろう。
主人公ロイの華々しい記者会見や、妻とサージ被害の様子をTVニュースで見ている場面など、日常とのつながりを示唆する場面を削りに削って、宇宙飛行士という一見華やかな職業の孤独感を浮き彫りにした狙いがある。
ロイとクリフォード親子はついぞ理解しあうことはなかったが、とことんまで「理解できないこと」を確かめ合ったのだろう。それは互いにとって望ましい結末ではなかったのだろうけど、自分の心に決着をつけて前に進むことはできる。
クリフォードが逃げたかった現実とはなんだろう。ロイは本当は他人との関りを欲しているにも関わらず、喪失感を味わいたくないことから、他人の存在という現実から逃避していた。
しかし父親クリフォードは違う。自分の目的が邪魔されることへの恐れ、寿命が尽きようとしているにも関わらず、自分の目的が達成できない事実を直視する恐れ。地球に戻ることは否が応でもその「現実」を直視し、しかも自分の口からそれを世界に告げなければならない。
彼は自分自身から逃げるように、宇宙の闇へ吸い込まれていった。
そこには幸せも不幸せもなく、ただ自分の人生に納得できるのか、できないかだけがあるだけだった。
予備知識がないと、ちょいちょい「地球外生命体」の存在を期待してしまう演出が成されている。
その展開を希望する人にはひどく退屈に感じるだろう。
しかし「2001年宇宙の旅」にも匹敵する格式の高さを兼ね備えつつ、随所にサスペンスフルな事件が散りばめられていて緊張感のある作品だった。それでいてロイの宇宙への好奇心や愛情も随所に垣間見れ、切ない気持ちにもなった。
ブラックホールのように内側に吸い込まれていくような感情を解放しようとあがく、ブラットピットの静かな演技が味わい深い。