「ドン・キホーテを殺した男」テリー・ギリアムのドン・キホーテ KinAさんの映画レビュー(感想・評価)
ドン・キホーテを殺した男
「ドン・キホーテは死なない」
そう、彼はこうして生き続けるのだ!!
なんて狂おしく愛おしく哀れで面白い物語なの。
テリー・ギリアム初体験の為、セルフオマージュやらギリアム節やらは分からなかったけれど、まっさらな状態でストレートに受け取っても非常に楽しい映画だった。
学生時代、スペインの小さな村で撮った小さな自主映画。
あれから10年、CM監督として再び訪れたあの村で突き付けられた、とある因果。
地味な靴職人の老人は自らをドン・キホーテだと信じ込み、酒場の娘はスターを目指すも上手くいかずに権力者の愛人へ。
自分の映画が人の人生を決定的に変えてしまった。
ズキッと痛む胸を押さえ、キホーテじじいと共にあちらこちらを転がり走り回る奇妙な旅道中。
どうしてそうなる!?を連発し、奔放に展開していくストーリーが楽しくて楽しくて、ずっとニヤニヤしながら観ていた。
狂気と正気、幻想と現実、夢と目覚め、それらを行ったり来たりする描写が面白い。
目覚めたらヤギ!のキスシーンが好き。
移民の集落で見る夢が好き。同じ夢を見ていたのは後々への伏線だったのかもしれない。
グロテスクでファンタジー要素盛り沢山のモチーフも大好き。
生々しい動物の死骸が頻繁に出てきたのは、死と生をがっつりと対比させるためなのかなと思った。
確実に流れゆく時間の先には必ず死が在ることを示し、その中でドン・キホーテがどう生きていくのか、作品がどう残っていくのか。そんなことも描いているのかなと思った。
「あの頃」を眺めるトビーがあまりにもエモーショナルでうっかり泣いてしまったので。
支離滅裂に見せつつきちんとストーリーを組み立ててくれていて、思っていたよりもかなり観やすい。
何が起きているのか混乱する部分も若干あれど、すぐに持ち直して巻き込んでくれる力がある。
謎すぎる現地の青年の、ストーリーテラー的な案内人的な立ち位置が面白かった。
演者も製作陣もすごく楽しみながら撮影していたのでは!?なんてことを思える映画だった。
私のアダム・ドライバーの好きなところもたくさん詰まっていて、大満足である。