「名作と呼ぶべきか珍作と呼ぶべきか」ハウス・ジャック・ビルト クラさんの映画レビュー(感想・評価)
名作と呼ぶべきか珍作と呼ぶべきか
ラース・フォン・トリアー監督作、「アンチクライスト」や「ニンフォマニアック」等は芸術作品と思っている今日この頃。確かに見ておかなくてはならない秀作の数々だが、個人的にはそこまでどハマりする程の感動は無い。どちらかと言うと少し引いている位だ。もちろん映画好きしか観てはいけない様な作品ばかりで、興行的な面は気にしないのだろうかという位に映画作りに没頭する監督…。それでも筋は一本通った作品しか無く、それで持ってアート性を含んだ作品である。こんな作品を撮れるのはきっと頭の中身がぶっ飛んだ人間の所業である。どういう脳の構造をしているのか毎度気になるものだ。そんな監督の最新作は、ひょんな事から犯した殺人がきっかけとなり、何かのタガが外れたように連続殺人鬼になってしまうというホラーである。少々女性と観るのは勇気がいる様な描写もあるが、監督の作品群の中では1番と言っても過言では無い程に分かり易いストーリーだったのではと思う。それでも長尺の割には説明不足…というか説明しない展開等はいつもの"監督臭"がプンプンである。
主人公の目線で狂気が加速していくにつれ、もう抜けられない永遠の闇をテーマにした様な作品である。真面目で潔癖症の主人公、ジャックが犯した最初の殺人から、潔癖であるが故の徹底した清掃。これは自分の身を守る為に偽造工作をしたのではなく、自分の痕跡を残さないという強迫観念に囚われた主人公の心情を表している。こういう細かいが主人公の奥深くを描くラース・フォン・トリアー監督ならではのこだわり演出である。ジャックは表には出さないが、そんな自分を変えたいという思いもあり、殺人を犯す度に潔癖度合いが減少している旨の事実に気がつき、そこからの垢抜け感というかはっちゃけ感は物凄く不気味であり、その演技力の高さに脱帽してしまった。前半と後半でジャックが別人の様に振る舞う様に見えて、思わず"これぞホラーだ"と思ったものだ。
後半に行くにつれ加速する、ジャック念願の、"家"を作るシーンはそこら辺の胸糞映画よりもずっとレベルの高い物が見れる。そしてあの唐突に訪れるあのラストである。ピザを売る為に買った冷凍庫の奥にある"開かずの間"を開けた瞬間、鑑賞者は「?」となるはずだ。色々な解釈も出回っているが、観る度に自分自身の考えも変わりそうなイメージだ。この世界観、ストーリー展開、これらに何の躊躇も無く挑める人は恐らくこの手の作品は楽しめるはずである。
