劇場公開日 2019年10月11日

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「19世紀? あのね、他人事ではないよ」第三夫人と髪飾り きりんさんの映画レビュー(感想・評価)

5.019世紀? あのね、他人事ではないよ

2020年12月28日
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鑑賞方法:DVD/BD

映像端麗。

【制作の背景】
19世紀の物語で、監督の曾祖母の実話から作られた作品なのだそうだ。

男社会に従属させられる女性の地位は、昨年(2019年)にこの映画が作られたこと、(作られなければならなかったこと)により、出来たばかりのこの映画をして「社会主義国ベトナムに於いてさえ、未だに『男尊女卑』が残っていること」を、ある意味我々に教えてくれる。

(⇒リンクはあげられないが「トーキョー女子映画部」ほか[アッシュ・メイフェア監督]検索で非常に興味深いインタビューが載っている)。

【登場人物】
嫁いできた第三夫人のメイは、3番目で“末っ子”タイプののんびり娘だ。ポーっとして自らの運命をゆっくりと思い巡らしながら戸惑っている。
第一夫人は苦労人の長女タイプ。

そして第二夫人は“間”にはさまれて自由を求めている。この二番目の夫人の、そのまた次女がとてもいい! 歯を食いしばって匙を拒み、飼育される自分に抗う。そして永年の女の運命に訣別する“ある行動”を最後に象徴的に見せてくれた。

【演出の妙】
流産のアザミ茶
安楽死の黄色い花
川辺で首をくくる白い帯

水辺の村で、美しい山河をバックに、心を殺して男のために耐えて生きるか、あるいは別の生き方がこの水の先にあるのか。
峡谷、小川、雨、いく筋もの涙と、破水。そして水たまりと台所の湯気と・・たくさんの水の流れが印象的に妻たちの人生に流れていた。

言葉少なながらも、実に美しくシリアスな意欲作だ。
カメラは研ぎ澄まされた高感度映像。
そして人物描写はあの「パパイヤの香り」、「ノルウェーの森」のトラン・アン・ユンの薫陶を受けているようだ。

で、反骨のアッシュ・メイフェア監督はもしかして第二子あるいは次女なのではないかと調べたが、それは判明しなかった。

・・・・・・・・・・・・

ベトナム本国では、13才の主演女優の床入りシーン等でネット上で騒動となり、上映4日で打ちきりになったそうだが、それは“児童福祉法”的な規制や世論によるものだろう。

しかし、
思うが どうだろうね、
ベトナムって遅れてる?
文化遅滞国?
でもね、この映画を観ることさえ能わない人たちが意外と私たちのすぐ近くに存在しているのではないかな?
思い当たりませんか?

・・もしもこの映画を日本の国で、あの千代田区の名家の方々が、この映画をご覧になったらば、何を思われるだろう。
「男系の、跡継ぎの男児を産むこと」― たったひとつ、この役割だけを今日に至るまで一千年にも亘って求められている女性たち。
「誰が産んだか」は一切どうでもよく、
「父親は誰か」=その事だけが求められる伝統。
それ故ついぞ明治の時代までは側室が供され、石女(うまずめ)は蔑まれ、自由恋愛は世を上げて叩かれ、口角を上げながら生き、口角を上げたまま死んでいかざるを得ない、現代の奇習に幽閉されている、あの女性たちは。

きりん
NOBUさんのコメント
2020年12月29日

おはようございます。
 気骨ある、アッシュ・メイフェア監督の流麗な作風が好きなので、
 新作を期待しています。
 今日から、子供たちが帰郷するので、ソワソワしているNOBUです。
 では、又。
 良いお年をお迎え下さい。

NOBU
bloodtrailさんのコメント
2020年12月28日

現代の価値基準で、明治時代の側室の「異常性」を非難されてる様に読めるのが気になるのと、「現代の奇習に幽閉」なーんてことになってしまった背景は、少しお調べになってはいかがでしょうか。

bloodtrail
NOBUさんのコメント
2020年12月28日

おはようございます。
 ”映像端麗。”
 この映画の美しくも哀しき世界観に魅せられた者が、レビューを拝読させていただいた感想です。
 文章流麗。そして、全文から伝わる静かな憤り。
 流石です。
 では、又。

NOBU