プライベート・ウォー : 特集
新聞やニュースでは知ることのできない“真実”が、本作では描かれている…
戦地では何が起きていた? 女性戦場記者が見た“信じがたい事実”とは?
銃声と爆音轟く危険地帯の圧倒的臨場感 戦争を肌で感じる稀有な良質作
映画は、ときに新聞やニュースでも報じない“真実”を映し出すことがある。報道機関が入り込めない危険な最前線で、一体何が起きているのか。メディアがカメラを回していない戦地で、住民たちはどのように暮らしているのか。9月13日に公開を迎える「プライベート・ウォー」は、そうした“信じがたい事実”を暴き出し、戦争自体を肌で感じさせる稀有な作品である。
あなたが“普段見ているもの”では書かれていない“戦争の真実”――
これは“正義の戦争”を取材した女性記者を描く、“信じがたい実話”である
本作は、実在の女性戦場記者メリー・コルビンの半生を、「ゴーン・ガール」のロザムンド・パイク主演で映画化したものだ。レバノン内戦や湾岸戦争など、世界各地の戦場を取材して飛び回ったコルビン。その業績から“生ける伝説”と称され、型破りな取材スタイルは同業者の尊敬と批判を一身に集めた。
そしてこれは、命を賭して戦場の現実を伝えたコルビン、その生きざまに共鳴した人々が紡いだ、“信じがたい実話”でもある。日本人が目にするニュース番組、新聞、Webには書かれていない“戦争の真実”が、今、詳らかにされる――。
□ニュースでも報じられない“真実”が、ここにある “正義の戦争”で何が起きた?イラク戦争や、いわゆる“アラブの春”を取材し続けたコルビンは、“正義の戦争”が粛々と実行される裏で、虐げられる力なき人々の現実を目の当たりにしてきた。
民間人は当然のように戦火に飲み込まれた。医者もおらず薬も足りず、野戦病院では獣医が血だるまになった人間を手当てしている。この映画は、女性記者が目撃した “現実”にスポットを当てているのだ。
□“女性戦場記者”の視点で描く “戦争を報じること”の意義とは?
女性の戦場記者を主人公に据えるという、世界的にも非常にユニークな作品でもある。1分間に47回もの爆発音が轟き、死がべっとりまとわりつく戦地に、コルビンはなぜ赴くのか。戦争を報じることの意義とは。その答え、そして矜持を、本編から確かめてもらいたい。
□驚きの事実が連続… 信じられないが、これは“実話”である
劇中、驚くべき出来事が次々と語られるが、そのすべてがコルビンが経験した“実話”だということが、にわかに信じられない。人間性が破壊される極限状態では、戦時国際法は有名無実化するのである。
メガホンをとったのは、シリア内戦に肉薄したドキュメンタリー「ラッカは静かに虐殺されている」を手がけ、ショッキングな“惨状”を世界に知らしめたマシュー・ハイネマン監督。ドキュメンタリーの手法が効果的に作用し、臨場感や迫真性がすさまじい。さらにコルビンの実際の服装をも再現するなど、細部へのこだわりが物語に特異なリアリティを付与している。織り上げられた映像の圧力は、観客がこれまで抱いていた“認識”を即座に転覆させていく。
上司に戦地取材を禁止されたら…?危険な武装勢力に拘束されかけたら…?
驚きの機転で危機脱出! 主人公の破天荒すぎる“クレイジー・ジャーナル”
外見からも伝わってくるとおり、この主人公、言動は破天荒そのものだ。ルールに縛られることを嫌い、常に信念に突き動かされ、己の使命を全うすべくあらゆる手を尽くしていく。本項目では、そんなコルビンの無茶苦茶ではあるが、愛すべき“クレイジー”な行動の一部を紹介していく。
□危険地帯への取材を、会社が禁止したが…スリランカ内戦を取材するためオフィスを出ようとした瞬間、コルビンは上司に「危険すぎる」として渡航を禁止される。しかし、コルビンはこれを全く無視し、即日、現地へと飛んで行った。さらにイラク戦争では、応じなければ従軍資格がはく奪される手続きさえも、行動が制限されるとして無視。アメリカ軍も近寄らない危険地帯へと、颯爽と出かけて行った。
□取材地に向かう道中、危険な武装勢力に拘束されかけたが…
コルビンは「通行許可証がある」と、おもむろにカバンを探りだした。同行した戦場カメラマンは怪訝な表情を浮かべる。そんなものは、そもそも存在しないからだ。しかし彼女が取り出した“何か”を確認した武装集団は、あっという間に一同を解放した。コルビンは何を見せたのか……?
□カダフィ大佐にインタビューを行った際には…
リビアの独裁者・カダフィ大佐と、単身でインタビューできるほどの“大御所”。旧交を温めるように和やかに取材は始まるが、突如、コルビンはカダフィ大佐の戦争責任を痛烈に批判。辛辣な言葉を浴びせられ、独裁者はみるみる顔を紅潮させていく……。
ほかにも… ・衛星電話を使いすぎて料金が会社の経営を圧迫 上司は激怒 ・左目失明に落ち込むどころか、「海賊」を自称するなど冴えたギャグを放つ ・「下着は高級品を身に着けている」と告白 いつ戦地で倒れてもいいように、だと言う ・パソコンは苦手 しょっちゅうブルースクリーンに悩まされているコルビンに対しては当然、「とんでもない記者」「真面目にルールを守るのがバカみたいだ」などと批判もあった。一方で彼女が暴いた“真実”はそれこそ無数にあり、時に引き裂かれるような悲劇に涙し、そのたびに「報道で世界を変える」と思いを強めていった。魅力的であまりにも壮絶な“個人の戦争”を体現したのは、実力派女優ロザムンド・パイク。2019年の第76回ゴールデングローブ賞では最優秀主演女優賞(ドラマ部門)にノミネートされるなど、熱演は各方面で絶賛評を受けた。
“戦争の真実”を肌で感じる、稀有な映画体験――
絶え間ない銃声と爆発音 観客を戦場へ放り込む、圧倒的な臨場感
本作が持つ臨場感は“圧倒的”の一言に尽き、「プライベート・ライアン」や「ダンケルク」に比肩するといっても過言ではない。ハイネマン監督が創出したソリッドな映像は、観客を一息に、粉塵の舞う戦場へ放り込む。
映画の序盤、コルビンがスリランカ内戦で大ケガを負う場面が白眉だ。薄暗い夜半、反政府組織とともに農地を移動するさなか、突如、足元の土がいたるところで跳ね上がった。一瞬ののち、けたたましい銃声が耳に届く。同時に強烈なライトの光があたりを照らし、前方に銃を構える人々のシルエットが浮かび上がった。撃たれていたのだ。コルビンは反射的に「記者だ!」と両手を上げるが、遅かった。背後が爆裂し、まともに食らった彼女の視界は暗闇に包まれた。
カメラはコルビンの後ろをついて回り、戦場記者が“見ているもの”を観客に示してみせる。音楽も必要最低限に抑えられ、銃弾が空気を切り裂きレンガに着弾する音や、遠くで爆炎が上がり建物がビリビリと振動するなどの“環境音”が、劇伴ともいえる役割を果たしている。
あらゆる演出が、見る者を戦場へ誘うためにデザインされている。観客は映像を通じて戦争を肌で感じ、コルビンが目撃した出来事を追体験していくのだ。戦争報道で世界を変えることはできるのか。真実は、この映画のなかにある。