「その犬たちの遠吠えは、悲しみか、怒りか」犬鳴村 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
その犬たちの遠吠えは、悲しみか、怒りか
清水嵩監督の新作ホラーは、福岡県に実在する日本最恐と言われる心霊スポットが題材。
調べてみると、旧犬鳴トンネル、犬鳴峠、犬鳴谷村とあり、それらを一括りにして“犬鳴村”。
さらに調べてみると、心霊現象の他に曰く付きの歴史や事件も多々。が、これらは全てが確たるものではなく、史実もあればあくまで噂も。
ノンフィクションをベースにしたフィクション。単なる都市伝説か、それとも…曖昧な点が興味をそそる。
ポスターも怖そう。
当たり外れの差が激しい清水ホラー。近年質落ちが嘆かわしいJホラー。
そんな中、第2弾『樹海村』の製作も決定し、Jホラーの新たな金脈となりそうな“実録・恐怖村シリーズ”。
その第1弾に“足を踏み入れた”感想は…
何だか結構ボロクソレビューも多いようだが、近年のJホラーでは真っ当で正統派だったと思う。清水作品としても久々に(って言うか、いつ以来…?)悪くない方。
冒頭のドキュメンタリー風の映像。
亡霊たちの不気味なビジュアル。
キーワードの一つである“水”。
それが滴り落ちる不穏な音。
意味深な村の童歌。
主人公の奏は他の人には見えない“人影”が見え、時折何度も現れる。
最もビクッとしたのは、2度の転落。
運転中窓ガラスへの転落と突然の“ご乗車”、よく事故らなかったなぁ…。
話は好き嫌いが分かれそう。
心霊スポットのただ怖いだけの作品を期待していた人にはちと肩透かし。
作品は、主人公・奏の周囲で起きる奇怪な現象とその原因である犬鳴村の悲劇。
地図から消えた村、水、何かを訴えているような亡霊たち…と来れば、何となく予想は付く。話自体の弱さも否めない。
が、その昔、犬鳴村と同じような悲劇を辿った村はどれほど有ったのか。
周囲から完全断絶、集落差別、ダムの底へ地図から消え…。
見ていたら怖さよりそちらの方を考えてしまった。
ホラーに悲劇は付き物。
もう一つの付き物と言えば、美女。
三吉彩花が初のホラーヒロインを熱演。
言うまでもなく、おどろおどろしい作品に華を添える魅力。
奏とその血筋のルーツの物語でもある。
何処か悲劇的でもあり、代々亡霊が見え、呪われた血筋なのか…?
否。抹消された犬鳴村から生き延びた、彼らが存在した証し。
あの時村から助け出したから、今の私たちが居る。
数奇な運命が意外にも感動的。
(ただ解せないのは、ご先祖様が子孫たちに襲い掛かる終盤。ご先祖様、お戯れを!)
しかし…
人とは違う血は身体に流れている。
奏たち以外にも。
犬たちの悲しみか、我らを亡き者にしようとした奴らへの怒りか、やはり呪われた血筋なのか…?
本作には“恐怖回避ばーじょん”がある。
亡霊登場シーンに可愛らしい犬のキャラやユーモラスな吹き出しを被せたり、効果音や音楽を追加・変更して劇中の恐怖を緩和。
でもそれって、怖いのが魅力のホラー映画に対しての冒涜。
製作側は何考えてんだ? そんなの絶対見たくない!