「斬新で見応えのある本格的な忠臣蔵」決算!忠臣蔵 アラカンさんの映画レビュー(感想・評価)
斬新で見応えのある本格的な忠臣蔵
原作は、2012 年に東京大学史料編纂所教授・山本博文が上梓した「忠臣蔵の決算書」という著書で、小説ではなく、新書の解説書である。赤穂浪士を率いて吉良上野介の屋敷に討ち入り、主君・浅野内匠頭の無念を晴らした大石内蔵助は、討ち入り決行までの潜伏期間で使用した費用すべてを「預置候金銀請払帳」という帳簿に記録していた。その討ち入りに費やした資金は約 700 両。現在の貨幣価値に換算して約 9500 万円。お家再興のための資金から、江戸のアジトの確保、何十人分もの江戸までの旅費、武具・防具等の購入費、討ち入りまでの生活費など、非常に綿密な記録を残していたらしい。
忠臣蔵の話は、江戸中期を代表する大事件として日本史上で知らぬ者がないほどの有名な話であり、歌舞伎や映画やテレビドラマに何度も映像化されて来たが、こうした非常にドライな観点から描かれたものはこれまでなく、非常に新鮮で現実的な話に引き込まれた。吉本興業が製作に加わっているが、ほとんどおちゃらけはなく、非常に真面目に忠臣蔵をやっていて好感が持てた。吉原の遠景など、望外の眼福まで得られたのは嬉しかった。
先立つものがなければいかなる美談も成立しないという徹底したリアリズムは、非常に壮大な舞台設定であり、その仕掛けに大いなる笑いが込められていて、全編を観終わった人は心から痛快感を得ることができるので、その場しのぎの小手先のギャグなどはむしろ邪魔である。何人も出演している芸人たちが、真剣に時代劇を演じているからこそ成立している映画である。
主演の堤真一は硬軟使い分けて流石であったが、真面目一筋に自分の俸給の何万倍もの資金をドライに扱う勘定方の侍を演じた岡村隆史が実に素晴らしい演技を見せていた。籠に乗っていけばいいのに、というフレーズがあれほど見事な伏線になっていたことには驚嘆させられた。刀での戦闘シーンは忠臣蔵にしては意外なほど少ないが、そのシーンもリアルに徹していたことは非常に高く評価したいと思った。
音楽はあまり時代劇らしくなかったが、担当していた高見優は、「マイボス・マイヒーロー」などでユニークな音楽を聴かせてくれていた人である。軽妙な音楽が映画の雰囲気を和らげるのに効果を発揮していたと思う。
監督の中村義洋は、「ゴールデン・スランバー」「奇跡のリンゴ」「殿、利息でござる」などで馴染みのある監督である。脚本も手がけている今作の演出も非常に手堅く、時代劇ファンの期待を裏切らない出来上がりだと思う。吉本風の使い捨てのギャグを期待して来た人には物足りないのかも知れないが、それはお門違いで無い物ねだりだと言うべきであろう。近年なかなかお目にかかれない傑作な時代劇であると思う。
(映像5+脚本5+役者5+音楽3+演出5)×4= 92 点。