劇場公開日 2019年7月19日

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「U21」天気の子 うそつきかもめさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5 U21

2025年9月7日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

ストーリーなんてどうでもいい。
少年少女が抱くような夢物語。それを壮大なスケールで描き切って見せた。もしかしたら、世界一美しい「中二病」の映画かもしれない。

難癖をつけるより、思いっきりこの世界観に浸りきったほうがきっと楽しいに違いない。そうするには、私はもう年を取り過ぎているようだ

『君の名は。』の時は地方と東京の2か所を舞台にして並行的にストーリーを進行させる構成だった。その時に感じた、東京の登場人物たちの何とも言えない絵空事のようなニセモノ感。それは今回も同じ感想だった。もちろん初盆をむかえるのにあたって晴れを希望していたおばあちゃんのような、根をはった人物も描かれてはいるのだが、結局彼女も高層マンションに引っ越してしまった。

別に地に足の着いた生き方のことを言っているわけではない。

これだけのことを、天変地異としてではなく、ごく身の回りの人物だけで起きたドラマとして展開していく新海誠の世界観が、手の届く範囲で見せるリアリティにつながっているのだろう。

マスコミというよりは、胡散臭い飛ばし記事のライターとして活動しながら、おそらく数百兆円規模の損害を被ったであろう災害について一切触れることなくスルーしてしまう主人公の生活は、寝食すらも保証されていない。これは、ほとんどの人が理解できない感覚で、共感など程遠い設定だろう。見た目こそ普通の少年だが、ホームレスがたどるリアルな転落劇と言ってもいい。

彼女との出会いが、ハンバーガーを恵んでもらったことや、唐突にくさびのように飛び出す拳銃を手にするくだり。このあり得ない展開が、不思議に思えないのは、「晴れ女」という、ファンタジーな設定と、それをとことんリアルに見せてしまう写実的でこの上なく美しい風景描写。光と風を自在にあやつる新海マジックの真骨頂だ。

晴れ女が、雨を吹き飛ばしてくれるという「大ウソ」の前には、その他の細かな違和感はどうでもよくなってしまうのだ。それを可能にするのが、都会のどこかにある廃ビルのほこらなんて言う設定も、どこか現実の世界につながっている気がして、小気味いい。意地悪な言い方をすれば、『君の名は。』をまだ引きずっている感覚だ。それどころか、あの映画の主人公がそのまま同じ人物として登場したりもする。

これは悪ふざけ以外の何物でもない。

みつはにとっては、隕石が直撃して滅びた村と、それが無かったことになったパラレル日本で、東京が水没してしまうのだ。全部ひとつなぎの人生経験として。

とにかく、世界がどう滅びようが、ふたりがいっしょにいられることが大切なのだ。

ティーンエイジャーの瑞々しさが失われる前にこの映画を楽しんでほしい。

うそつきかもめ
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