「思春期の無垢さと背負う業」天気の子 きくさんさんの映画レビュー(感想・評価)
思春期の無垢さと背負う業
結論から言うととても面白い映画でした。愛する人を想う思春期の無垢さや、がむしゃらさがかつての自分を思い起こさせ、大人でも楽しめる映画でした。ラストシーンが現実世界の厳しさを描いていて良い後を引く映画だった。
良かった点
・映像描写が美しい:さすが新海誠作品といった所です。雲から光がさす描写、雨粒、雨に濡れる夜の街など全てが美しい。何よりも人間の生活環境が非常に細かく描かれている。その人の服や歩き方、側にある物などがとても細かく描かれているので本当にその人が生きていると感じる。それによってセリフや心情がリアルに伝わる。
・ストーリーに無駄がない:最初から最後までずっと面白かった。展開に必要な所を細かく描きながらも飽きがこない。最後まで集中してみれる作品だった。
・登場人物の心情が細かく伝わる:キャラクターの表情がとても豊かで、そこに声優の声が合わさり登場人物の感情の動きに胸を打たれました。特に終盤の雑居ビルで警官やけいちゃんに囲まれた時の帆高の想いの吐露、叫びが良かったです。思春期の無垢さ、不器用ながらも愛する人に会いたいという純粋さに胸を打たれました。
・挿入歌やBGMが効果的:タッグを組んでいるRADWIMPSの音楽が主人公の帆高、陽菜の心情を伝えてくれる。終盤の帆高たちが選んだ業を背負う選択の際の残るしこり、必死に明るく生きようとする中でも、不安やモヤモヤなど感情が音楽に非常にマッチしていました。帆高の愛する人を求めて走る終盤のシーンには、溢れる感情が音楽とリンクして表現されていて胸を打たれました。
・ラストシーンの結末:ここは賛否が分かれる所だと思いますが、私はこの結末が好きです。世界と愛する人どちらを選んでもバッドエンドという残酷なストーリー。ですが、異常気象や巫女の天気を操る力など、そもそもが現実離れしている話しなので、強引にハッピーエンドにすることもできたはずです。しかし、私たちの生きる世界には一度した選択はもう二度とやり直せない。二者択一で選ばざるを得ない厳しさが私たちが生きるうえでもあります。自分が欲するものを得る為にはそれ相応の代償が必要です。世界を左右する選択に迷いながらも、愛する人を選び思春期の子供達が背負ってこれからも人生を生きていく、その覚悟が生きていくうえで必要であり大事なことなのだということがこの映画を象徴する新海誠監督のメッセージだと私は受け取りました。
悪かった点
・ラブホのカラオケで少し冷めた:帆高や陽菜達が必死に警察から逃げ切れて安心している場面なのは分かる。だが、直前まで流れていたピアノBGMや帆高のセリフから、安心しながらもこれからの不安が常に心の中にあるという絶妙な雰囲気を演出していたので、邪魔しない音量で流して欲しかった。完全に雰囲気がぶつ切りになってしまった。
帆高の東京に出てきた理由が分からない:ほんの少しでも良いので帆高が感じていた地元や家族の中での関係を描いて欲しかった。そうすれば帆高が1人で東京での生活に苦悩している所に深みが増したと思う。