「ハイディティールな箱庭のセカイ」天気の子 ipxqiさんの映画レビュー(感想・評価)
ハイディティールな箱庭のセカイ
金ローにて初鑑賞。
とにかく背景の描き込み&実景の再現度が高いので、一見リアルな東京なのかと勘違いしてしまうが、内容はあくまでファンタジー。
雨の降りつづく街といっても、その雨がどういう意味を持つのかは明確ではない。
災害レベルなのか、それとも気分の問題で片づく話なのか。そこら辺のルール説明があいまい。もしリアルに考えたら、少なからず死者が出てるんじゃないかとか、社会生活に深刻な影響が、とか余計なこと考えてしまうけど、元々そういう話じゃないんだな、きっと。
ただ前作「君の名は。」よりはずっと好感が持てた。
それは序盤の主人公や、ひとりで家族を守ろうとするヒロインが直面する苦労、社会的な不自由さがリアルで身に迫るからだと思う。
今の若い人らしく、あくまで常識的の範囲内で、たとえどんなに困ってもそれを表に出すことなく、迷惑にならないよう周囲に気を遣う。
でもだからこそ、どんなに「いい子」にしていても決して自分たちを顧みてくれないセカイ(東京)に対して最終的に主人公が下す決断も、やむを得ないものだと納得してしまう。
新海誠の演出は、「言の葉の庭」を観た時にいつまで経っても上手くならないなーと失礼なことを思った記憶があるが「君の名は。」を経て格段にレベルアップしているように見える。
今作ではよりさり気なく、セリフに頼らずとも観客に情報を伝えるスキルがアップしている。
それは優秀なスタッフが集結したことによるアニメとしてのゴージャスさとはまた別の、普遍的な映像表現の部分で、まさに監督としての力量が上がっているんだと思う。
とくに序盤はテンポよく、すんなりとストーリーに引き込まれた。
それだけに、肝心なクライマックスに近づくほどセリフや歌詞のある歌で盛り上げなければならないことが残念だった。
それはつまり全体的な作劇の弱さ、クライマックスに向けてどんどん収束し盛り上がっていくような脚本がうまく作れなかった結果だと思う(いや、もはやこういう手法なのはわかってるんですが)。
後半、ヒロインの能力の負の側面が説明されていくあたりから、序盤のスピード感が衰え、停滞感を覚えるようになり、グダグダしはじめる。
拳銃が意味はわかるけど余計、という批判もわかる。でも「君の名は。」ほどは要素盛りすぎじゃない、整理されてる。
中年になっても未だにこういう作品をやれるなんて若いなあと思ったけど、なんだかんだ、対象と一定の距離が取れるようになってるってことなんだろう。
そしてラストで主人公が自分の決断の意味を思い知るくだりは、セリフ抜きに伝えることが難しいものなので、あのやり方しかないという気もする。その意味で、こんだけ映画を作っていながらやっぱり小説的な作家性なのかもとも思う。
結局のところ、外的な目に見える環境より、パーソナルな小さな感慨の方が上位であり作品を支配する。
だからこその箱庭感、わかりあえない他者も確かに潜んでいる世界としてのリアリティの乏しさなんだろう。それをセカイ系っていうんだろって?
箱庭だと自覚してるからこそ、チープに見えないようなるべくリアルに、緻密に描き込む必要があったんだな。手の込んだドールハウスみたいな執念で。
ところで東京の風景になじみがない地域の人には、それが通用するのだろうか。
この東京が作り手の内的な世界とするならあのオチは、「青空」映画(さわやかなボーイミーツガール)を期待されてるのは知ってるけど、それはほんの一部分でしかなく、最終的にやりたいのは文字通り湿度が高くてビショビショにウエットな作品なんで! という逆ギレともとれる。
俳優メインのキャストは全体的にレベルが高くて、ヒロインの森七菜や本田翼も違和感なく楽しめたが、とくに小栗旬の声優さんかと思うような細やかな演技にはびっくりした。意外と器用なんだなぁ。
作画は全体的にハイレベルだけどちょっとベタベタした表現(とくに水とか涙などの液体)が多く前作の方が、なんなら間に流れたZ会のCMの方がクールで好みだった。