「無責任な大人の「絶望の物語」」天気の子 shindyさんの映画レビュー(感想・評価)
無責任な大人の「絶望の物語」
日本の行く末に絶望した新海監督と、アイドルが破壊した音楽業界の荒野に絶望したRADWIMPSの音楽が、これからの「未来を生きる子供達」を身代わりに日本を「破壊」させる物語に見えました。
最終的に子供達は、荒んだ社会の歯車になるか、日本を破壊することに希望を見出すかの二択を迫られ、破壊を選びます。
そして破壊後の日本では、大人は「元々の海に還るだけ」と諦め、子供達は毎日祈っているというエンディング。
特に絶望の深さを感じるのは、前作の「君の名は。」の主要キャラクター達が成長し登場するのですが。
前作で不思議な体験をした子供達も大人になり、社会の歯車として平凡な暮らしを送っている。
その「君の名は。」の世界を引き継いだまま、降り続く雨の影響で世界を破壊します。
大人が作り、壊した世界に未来は無いと。
俺の作品もいつかは平凡になり水の泡に消えると無責任に描き、映画館に来る子供達に絶望を見せつける作品です。
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《絶望ポイント①》
金銭面・食べ物・人間関係というあらゆる面で貧困な環境に置かれる子供たち
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主人公の子供たちは、日々の食べ物にも困る貧困な状況に置かれ、陽菜は金のために年齢を偽り大人に体を売ろうとする。
また、食事の多くはカップラーメン、スナック菓子、ハンバーガーなどが中心。
スポンサーだからということで商品のパッケージがそのまま登場します。
安価で緊急時にも役立つ!という風にも見えますが、必要に何度も登場するあたり「貧困な食事」として、企業を批判しているようにも見えました。
穂高が東京に来て頼るのは「ヤフー知恵袋」。
ただし、死ねだのカスだの言われて終わり。「便利なネット社会」の交友関係はすでに死んでいる。
RADWIMPSが歌う「愛の歌も歌われ尽くした 数多の映画で語られ尽くした そんな荒野に生まれ落ちた僕、君」は、主人公の子供達の貧困の深さを増します。
日本のアイドルを中心とした音楽業界・メディア業界の死を歌っているようにも聴こえます。歌にできることはあるのか?と。
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《絶望ポイント②》
見た目も人も汚れた夢の無い東京
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昔から窮屈な田舎から上京する理由はさして変わりませんが「君の名は。」ではとにかくきれいに描かれていた「東京」が今作では、大人は不親切、汚れた街、夢より金になっている。
昔のように夢を持って東京に来ても居場所はない。
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《絶望ポイント③》
市民権を得られるのは高校卒業後。大人の許可がないと街も歩けない子供たち。
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作中、何度も主人公の子供達は身分証の提示を求められ、宿にも泊まれず行き着く先はラブホテル。
陽菜の家には、親がおらず子供だけで暮らすのは許さないと警察など公的な立場にいる大人が家に乗り込んで来る。
大人が支配し、子供に自由はない。
高校を卒業してからやっと自分たちの選択が可能になる。
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《絶望ポイント④》
今作の「天気」とは世の中の流れ?
淀む「天の気」。止まらない破滅への道。
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経済の良し悪しを「景気」というように。
今作の「天気」は単純な雨・晴れという気象現象と、世の中の空気感を合わせていると思います。
いまの日本の息苦しさや、不自由で貧困な環境に置かれる子供たち。
もちろん異常気象、世の中の流れを天気に置き換えたのだと思います。
舞台は雨が降り続き空気が淀む東京。
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《絶望ポイント⑤》
大人の世界の階級制度
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お金持ち、上流階級はなるべく「空」に近い高層マンションやホテルで生活をする。一方、主人公の穂高を助けるはみ出し者の大人、須賀は道からもさらに階段で降りる下層で暮らしている。
大人と子供という対比の中。
大人同士の格差も出てきます。
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《絶望ポイント⑥》
子供を支配し、搾取し、邪魔をする大人
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今作はとにかく大人が悪者として登場する。
主人公の子供達を何度も邪魔し、街を汚し、子供の自由を奪い、性の餌食にする。
正義・日本のルールと称して、子供達の関係を引き裂きます。
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《絶望ポイント⑦》
出る杭はメディアに潰される
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雨が続き、淀む街に晴れ間を呼び込める力を持つと、あらゆる人が老若男女関係なく頼って来る。自分の欲を叶えてと。
SNSなどで拡散し、最終的にテレビに取り上げられるとスッパリやめてしまう。
また、これから将来的に、若い子たちがどれだけの人を肩に乗せて、税金を払い、関係ない人を支えていかないといけないのかという描写にも見えた。
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《絶望ポイント⑧》
大人になった平成の子供達
前作の隕石回避は無駄だったから破壊
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「君の名は。」の世界を含んで、最後の崩壊へと進みます。今まで子供だった前作の主人公も大人になり、社会の歯車の一つになっている。
隕石の落下など、小さいと言わんばかりに、日本が粉々になる。
赤い糸に結ばれ、絶望を回避した事も無駄だったと言わんばかりに全て破壊。
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《絶望ポイント⑨》
大人の犠牲になる子供達
日本を破壊する子供達
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世の中の淀みに光を当てられる「未来ある子供達」。最終的には大人の犠牲・生贄になります。
物語の終盤、子供達は社会のために死ぬか、世界を壊してでも自分たちの僅かばかりの幸せを守るか決断し、破壊します。
破壊後の世界で、大人はその風景を見て、「ここは元々海だった。また海に還るだけ」と開き直ります。
島に連れ帰られ、その後、大人の監視のもと高校を卒業した穂高は、大人になり島を離れる。
雨が降り続き海に消えた東京を前に、恐らく力を失った陽菜が、ただ祈る。
大人になった穂高と、力を失った陽菜が出会い物語は終わり。
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「あー、いい話だった」と簡単に言うには、荒々しい破壊の話だと思います。
こんな世の中、潰してしまえと考えるか、今の世の中のために自分を犠牲にしてでも生きていくか。
大人の1人である新海監督には、破壊後に、それでも生きていく!ではなく、その先の光を描いて欲しかった。