「2019年の夏に見る価値がある」天気の子 P CATさんの映画レビュー(感想・評価)
2019年の夏に見る価値がある
現代版SFキャッチャーインザライ。
大衆に媚びた新海誠かそれとも以前の作風を取り戻すか。個人的には前作より楽しめました。
●ストーリー
天気を操る能力を持ったヒロインと家出少年の主人公。二人はその能力を生かして自分たちのアイデンティティを確立していくけれど、実はその天候操作能力は使う程……
セカイ系エロゲ原作とか冗談で言われていますが、探せば似たようなストーリーはゴマンとあります。ただ、それを2時間に収めて過不足なく描き切った監督の才能に拍手。分かりやすいストーリー構成とテンポの良い展開で万人受けしそうな内容でした。
「これは!」と思った演出として、世俗の流行を積極的に取り入れてる点があります。初手バーニラ♪バニラ♪だったり星野源の恋だったり。映画はその時代の流行を露骨に取り入れる例は少ない(後世見た人が疎外感を覚えないようにではないかと個人的には思っています)のですが、この映画はそれを積極的に行っています。2019年の梅雨は異常に長く毎日のように雨が降っていたこともあり、映画で描かれる雨の東京には強烈なリアリティがありました。2019年の夏に見てこそ、このリアリティが十全に実感できるという意味で、まさしく体験としての映画造りが為されていたと思います。
様々考察ができそうな箇所があり、その手のオタクは喜んで頭をひねっていると思いますが、やはり全体主義から個人主義への価値観のシフト、あるいは滅私奉公を是とする風潮への忌避が中心に据えられているのかなと思います。
●演出
暗喩的なシーン、光る演出がいくつもあります。例えば指輪がすり抜けて落ちていくシーンや、二人で帰還した後チョーカー(だっけ?)が切れているシーン。「大体誰でもその意味に気づけるけど、明確に示されるわけではない」という上手い塩梅の演出で、誰もが気持ちよく批評家を気取れる感じでした。
●音楽
君の名は。大ヒットの原動力となったボーカル曲演出は本作でも健在。ちょっとくどい感はあるけれど、グランドエスケープのシーンは凄い爽快感だったのでOKOK。
●声優
キミノソォツォドオリダヨ?
本田翼の演技にちょっと不安はありましたが、恐らくあそこが一番最初に取った台詞だったんでしょうね…… あそこ以外は気になる点はほとんどなく、頑張っていたと思います。
●絵
雨の東京の質感、スケール感、どれをとっても圧巻!人物の書き込みも素晴らしく、これだけで見る価値があります。雨あがりのシーンは爽快感がよく表れていて、本当にこの人の作る空は綺麗だな……と感動しました。花火をドローン撮影のような視点で描くのも斬新で面白い!
●総評
君の名は。の流れを汲みつつ、随所に意欲的な工夫が施された良作。
最後は世界を犠牲にして一人の人間を救うという「一見不合理な」選択をするわけですが、よくよく考えてみると普通というか、当たり前な気がしますね。
誰もが「認識」を通じて世界を解釈し、自分の中にもう一つの世界のレプリカを作り上げています。彼には彼の世界があり、彼女を救う方が彼の中の世界にとっては悪影響が少なかった、それだけの話なんでしょう。毎日雨が降るようになるよりも、好きになった女の子に未来永劫会えなくなる方が、彼の世界への影響は大きいと。そりゃそうだよね。ひなちゃん可愛いもん。