「繊細さが失われ、ずいぶん大味になった。」天気の子 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
繊細さが失われ、ずいぶん大味になった。
映画を見終わって「一体何がどう大丈夫なの?」と思ったまま私の思考は一時停止。あなたたち二人は大丈夫でも、あなた以外の人々は少しも大丈夫じゃないんだけど?と冷静になってしまう私は、この映画にロマンを感じられるほど盲目(※)ではいられなかった。(※)使用の難しい言葉だと分かりつつ、他の言い換えがしっくり来ず。差別的な意味はないのでご容赦ください。
私は本来ラブストーリーが好きだし、他者を巻き込み犠牲を払いながら愛を貫いていく物語も好きだ。そういう物語を決して否定はしない。でも帆高と陽菜の関係にそこまでの愛を感じなかった。青春の淡い初恋としてならいいだろう。ただ東京を海に沈めてまで守るべき愛だと思えるまでには到底至らない。二人の絆がそれに相応するものだとはどうしても思えない。それを許せるほど二人に魅力を感じない。二人を見ていて、東京なんて海に沈んでしまえ!晴天なんてなくていい!それでも二人は一緒にいるべきだ!とは、とても思ってあげられなかった。
それはまず主人公の帆高の愛の枯渇や孤独感がまったく切迫して見えないというのが理由のひとつで、どうやら家出をして東京に来たらしいことは分かっても、どうして家出までしたのかが帆高から汲み取ることが出来ず、結果地元でしっかり高校を卒業までしているところを見るに、ただ中二をこじらせただけで家を飛び出してきたかのようにさえ思える。彼が一体何と戦い、何から逃げ、何を求めているのかがずっと漠然としていて、だから彼にとって陽菜が不可欠だと感じさせるだけの材料が揃わない。陽菜の設定も「両親を失い弟のために年齢を詐称して自活する少女」というまるで20年前のケータイ小説のようなフレーズにロマンを感じているだけで裏付けが存在せず、いちいちツッコミどころが多くて敵わない(いっそファンタジー設定は許すとして、社会的な設定など滅茶苦茶で)。
新海監督の作品は、世間でもよく言われるように「童貞的」な感性があってそれは長所だと思う。繊細でナイーブな少年のハートをそのままアニメーションに出来る人だ。ただ今回は演出が随分と大味になったと心底思った。音楽が流れ出せば分かりやすく画面は空へパンするし、聞かせたい台詞は「これは決めの台詞ですよ」と言わんばかりに際立たせる(そして私はその都度脳内で「は?何言ってんの?」と思う)。以前からそういう演出の手癖は分かっていたけど、それでもそこにある繊細さは損なわれていなかったはず。でも今回は繊細さがごっそり失われ、ストーリーもそこに描かれる帆高たちの感情表現含め実に大味で大雑把に思えた。
片腕に手錠をぶら下げて警察から逃げる少年やら、震える手で銃を構える少年やら、そしてそこにロマンを感じる感性やら、とにかく中二的でもう見ているこっちが恥ずかしい。帆高が年上の綺麗なお姉さん(陽菜も当初は年上と騙っていた)にからかわれて可愛がられているのもいかにも童貞的できまりが悪いし、なんだか・・・今回いつにも増して内容も演出もひどくクサくなったような・・・。ロマンだけを追いかけたクサい演出が「思わせぶり」ばかりを散りばめ、それらを決して回収することなく物語が強引に押し通されていくだけ。
シンプルに面白くなかったし、最終的に感じたのはひたすら「虚無」だった。