「「君の名は。」とは質の異なる作品」天気の子 カバ太郎さんの映画レビュー(感想・評価)
「君の名は。」とは質の異なる作品
※微妙にネタバレを含みます。
前作、「君の名は。」のメガヒットにより新海誠監督を知った方も多く、注目を集めていた本作ですが、蓋を開けてみれば随分と質の異なる作風であるように感じられました。
そのため、前作のような作品を求めて映画を観ると、合わなかったという方も多いかと思います。
そういう意味では、本作は前作ほどの評価は受けないでしょうし、あれほどのヒットになるとも思えません。
ただ、それは本作が劣っているとか駄目だとかでは全くなく、言ってみれば方向性の違いのようなものです。
男女の入れ替わりや、時間軸を利用したトリック、彗星による災害など、とかくキャッチーな要素が強く印象に残りやすい「君の名は。」に対し、本作はCMのキャッチーさとは裏腹に本編は割と泥臭い物語になっています。
最終的に彗星によって三葉の故郷が壊滅するのを防ぐ、ヒロイックなストーリーであった前作「君の名は。」に対し、本作の主軸となる物語は徹底的に主人公とヒロインの二人に収束します。
言い換えれば、問題が外的要因に帰結していた前作に対し、本作は内的要因によって物語が進行します。
系統としてはどちらも同じセカイ系ですが、その点が大きく異なっており、個人的には本作が様々な意味で「君の名は。」の対になるようなイメージも持ちました。
上記の関係上、だれもが共感しやすかった「君の名は。」に対し、様々な欠点や悩みを抱える本作の主人公やヒロイン(その他周囲のキャラクターも含め)が受け入れられない、という人も当然いらっしゃるかと思います。特に共感性羞恥とかを感じる人にはイライラするシーンもあるかと。
その辺は制作側も把握していたでしょうし、だからこそ前作と同じことはやらない、という意志も感じられました。
(キャラクターのバックグラウンドをあえて掘り下げなかったあたりもそういう意図があったのかなと)
あれだけメガヒットした作品を出しながら、安易に同じ作風に逃げずに敢えて別の道を選ぼうというその点に関しては私は大いに良かったと思っています。
次に、ストーリーと描写についてです。
設定周りはともかく、大枠のストーリーは取り立てて珍しいというほどでもなく、それこそゼロ年代のセカイ系作品には割とありがちなシナリオという印象でした。(まぁこれは「君の名は。」も似たようなものですが)
ただし、本作を評すにあたり重視すべきはそこではありません。
むしろ、その大枠のストーリーの中で如何に各キャラクターの細やかな仕草や台詞、心情の表し方や背景描写などを”魅せるか”という点において本作は傑出した存在感を放っています。
これはもう本当に凄いとしか言いようがないかと。
特に、昨今の深夜アニメほど属性過多でない、晴れ女としての特性を除けば普通の女学生でしかないヒロインを如何に可愛く見せるか、という点については監督のフェチズムが存分に篭っていたように思えます(笑)
物語の構成や伏線の張り方、回収の流れなどに非常に拘られる方には物足りないかもしれません。このあたりは完全に好みの問題ですが、基本的に一気通貫で視聴することになる映画においてはこのくらいシンプルなほうがメッセージは伝わりやすいのかな、と思いました。(緻密な設定を紐解いて物語の謎を考察したりするのも面白いんですけどね)
最後に演技について。
色々言われていますが、気になるほどの棒読みはいなかったかと思います。声優さんの演技に慣れていると多少の違和感はあるかと思いますが、作品の質を損ねるようなものではなく、作風を考えればむしろ下手にアニメ声を乱発するよりは良かったかと。
平泉成さんはまんま過ぎてちょっと笑ってしまいましたが(笑)
というわけで長文になりましたが、トータルとしては私はとても良い映画だったかと思います。
ただし、観たら元気になれる!とか、恋人と仲良くなれる!とかそういう類の映画ではありませんのでご注意を……
これは、少年と少女の「選択」の物語です。
だからこそ、「選んだもの」と「選ばれなかったもの」がきちんと存在することにこそ意味があるのだと私は思います。