「虚構と現実の融合」天気の子 grantorinoさんの映画レビュー(感想・評価)
虚構と現実の融合
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この物語は一発の銃声で動き出す。高校生がたまたま拳銃を拾い、人に向けて発砲するという、現代日本においては現実味のない展開である。これにより、本作は虚構であることが宣言される。しかし、その後に描かれるのは、親の不在により社会から弾き出され、もがき苦しむ姉弟であり、息苦しい地方から出てきた家出少年と生計を立てるという疑似家族の形成である。彼らは福祉行政に繋がっておらず、自らそれを拒否している部分もある。これらは今の日本が抱える病巣そのものであり、現実社会の問題を比較的ストレートに取り込んでいる。虚構の中に現実の問題をトレースすることにより、物語上と現実のリアリティを融合させ、物語を重層的に展開させていく。これほど注目される作品であるにも関わらず、このように踏み込んだ表現を選択したことは評価されるべき点ではないだろうか。
この作品には売春、ラブホテルといった直接的な性を匂わせる表現がいくつも登場する。それが、否応なく生々しい現実の生を感じさせる。もし彼女に天気を操る能力がなかったとしたら、彼らはどうして生計を立てていったのだろうか。もしかしたら、彼女は再び売春を選択し、彼は客引きにでもなった未来もあったかもしれない。考え過ぎかもしれないが、能力がなく天気の子になれなかった無数の子ども達がこの裏側にいることを考えると、最後の彼らの選択が胸に突き刺さる。間違いなく今見るべき作品。
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