「エンタメ映画の難しさ」天気の子 おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)
エンタメ映画の難しさ
君の名は。がエンタメに特化した作品であったのに対し、今作は新海要素が若干強まり相対的にエンタメ感が少し薄くなりました。
とはいっても基本はエンタメを意識した作品ではあると思います。
・相変わらずの絵の美麗さ
もはや新海監督のお家芸と化した圧倒的な絵の美麗さ。
東京だけでなく、日本全国の都市を彼に描いてもらいたいです。
・ヒロインの魅力
前作に続き、ヒロインがすごく可愛いです。
ビジュアル的なものもそうですけど、彼女のいじらしさ、健気さはザ・アニメヒロインと感じます。
本来15歳であるはずなのに、余計な心配をかけたくないと年上ぶる……あぁ健気。
まさに童○の好みそうなヒロイン。(褒め言葉)
カワイイ。
・薄められたセカイ系
今作は新海監督が好きなセカイ系の話でした。
ただし何倍にも薄められたセカイ系です。
普通のセカイ系ならば世界が破滅するとか、何万人も死ぬとかの事象をヒロインの命と引き換えにするのですが、今作はヒロインの命(?)と引き換えになるのは東京の正常な天候なのです。
実際には雨が止まなくなるってかなりヤバイですけど、作品内の描写的には雨が止まなくなってもそれなりにやっていけてるので、まぁ危機感は薄い。
・子供過ぎる主人公
おそらく賛否が分かれるのは主人公の人物像ではないかと。
恵まれた家庭環境でありながら「閉塞感がある。」という理由だけで東京に家出をする。
偶然手に入れた銃をその場の激情でぶっぱなす。
陽菜が消えたことに動揺し、大人への説明?意思表示?があまりに意味不明(そら精神鑑定言われますわ)。
どう見ても上手くいくはずないのに逃避行をする。
15歳でありながら大人っぽく強がるヒロインと比べて行動のすべてが子供すぎるのです。
ただ、これは視聴者である神の視点から見た感想とも言えますし、年上にも関わらず主人公がヒロインと比べて子供であることを強調したとも言えるかなと。
ただ見ていて気持ちのいい主人公でなかったことは確かかと。
あと見た目も幼過ぎるし、通行人Aみたいな顔なのも微妙。
前作の瀧くんも三葉に会いたい一心で行動していましたが、イケメン度が段違いです。顔も。
・終始暗い
ストーリーのことではなく、映像として。
テーマが雨なので仕方ないのですが、基本雨なのでどうしても画面が暗いです。
まぁそのおかげで晴れた時が美しく映えるのですが。
・微妙にリアルな生々しさ
生活のことだったり、ヒロインがいきなり水仕事をしようとしたり、引き離された子供を引き取るための打算とか……。
いや悪くはないんですが、絵の雰囲気には少し合わない気がします。
なんというか深夜アニメのノリで、一般受けはちょっとしないかと思います。
・ラスト
これも賛否の分かれるポイントでしょうか。
普通のエンタメ映画なら「ヒロインは帰ってきた! 天気も何故か(或いは死んだ母親が助けてくれて)正常に戻った! めでたしめでたし!」で終わっていたでしょう。
しかし今作はヒロインが帰ってきた代わりに東京が雨の止まない土地になって沈んだ……
かなり思い切った結末を描いたと思います。
それはヒロインを助けるために東京を犠牲にする選択を取ったことがというわけではなく、その選択肢があまりに地味であるということです。
先述したように現実なら東京の雨が止まなくなるってかなりヤバイんですけど、絵面が地味。
むしろ沈んだ東京が美しいまであります。
要はその究極の選択が究極じゃないんですよね。
雨が降り続けることによる今後の悲劇性が劇中で特に言及されていませんし、実際結末は住みにくくなったけどまぁ普通に生活できています。
あれ? これ迷う要素無いよね? 少なくとも主人公たちは。
そりゃその他大勢の人たちが聞けば「お前が犠牲になれよ!」ってなるかもしれませんが、周囲は真実を知りませんからね。
というかヒロインが巫女になったのだって、言わば偶然の産物なわけで……。
ヒロインが晴天を願おうと願うまいといずれは空と同化していたっぽいので、彼女に責任は一切ありません。
まぁ実際主人公はヒロインを助けて東京を犠牲にすることを一切迷ってなかったですし。
・エンタメ映画を描く難しさ
前作の君の名は。ってすごく好きなんですけど、正直それでも「あーこれは一般受けする、売れる作品を作ったなー」とは感じました。
パンフを見る限り新海監督もそれを感じていたようで、今作は自分の描きたいものを作りつつ、やはり観客受けするように意識しながら制作していたようです。
ただ同じ作品だと飽きられるから、迂回しつつ違う着地点に……。
自身のアイデアをスタッフに却下されながら(笑)
「売れる作品を意識して作れば評価が高くなる(評論家除く)のは当たり前!」だと正直思っていた部分もありました……が実際は売れて尚且つ評価の高い作品を作るのは難しいのです!
今作では高評価している人の中にも「賛否両論になるだろう」と評価する人が結構います。
君の名は。には高評価している人の中に「賛否両論になる」なんて評価をしている人はほとんど見ませんでした。
とある評論家さんは「プロデュース力すげーわ」と言っていましたが、そのプロデュース力だけでは、やはり売れる作品は作れません。
そういった意味で、君の名は。って傑作だったんだなと感じました。
色々長々と書きましたが、自分は面白かったと思います。
間違いなくもう一度観に行きますね。
次回作も楽しみに待っています。