「母と娘のラヴソング」シークレット・ヴォイス いぱねまさんの映画レビュー(感想・評価)
母と娘のラヴソング
未体験ゾーンの映画たち2019の作品群の中の一作。
青山シアターにてネット鑑賞。
『マジカルガール』の監督の作品。“カラオケ”が出たりと相変わらず日本贔屓で、親近感が湧く監督である。
自分は、『ペルソナ 仮面』を観ていないので比較はできないが、あの作品ほどは難しい精神分析論でもない話だと思う。
親子の関係性を一方では母、そして娘の視点で重ね合わせる構造になっている。オープニングからかなりの冗長さがあって、後半迄は退屈感もあるのだが、しっかりとそこは気持をキープする努力も観客は必要なのではないだろうか。
国民的シンガーの記憶喪失により復活コンサートが危うくなったことで秘密裏に歌真似が上手なカラオケ店員が、そのシンガーのマネを本人に指導するという、確かにパラドックス的な面白さがアイデアとしてストーリーのトリガーを際立たせている。
かなり気持が滅入ったシーンは、娘の我儘ぶり。自ら首にカッターを押しつけ、脅迫し、尚且つ母親の大事にしていたシンガーのアナログ盤をへし折るという、母親の尊厳を踏みにじる行為はかなりの観客の憤懣を演出させる。その関係性の詳細も描いてくれたらと思うのだが、あくまで娘への憎悪を固定させるためには不必要なのかもしれない。でも、屋外のダンスパーティの際の娘の苛立ちは、きちんと向き合ってくれない母への怒りと申し訳なさが同居した複雑な心情なのであろう。
そして明かされるシンガーの秘密は、明かされてみれば、きっかけ自体はそれ程深刻ではないが、しかしその親への仕打ちを、自分の名声と秤に掛け、過剰摂取すると分っててヘロインのプレゼントをするという親殺しをしでかしてしまった良心の呵責故の10年間の活動休止だった。要は、そのシンガーも又、母親の真似事以外の何ものでもない、多層的なパラドックスのプロットもよく練られている。カラオケ店員の件も、秘密にしていたシンガーとの関わりを弄ぼうとした娘への最初で最後の抵抗は、娘の自爆で終わってしまい、結局後を追うように入水自殺をすることで償いをする大変悲しいエンディングである。
そう、今作品、実は誰も救われていない悲壮な展開なのである。思い切った展開の中で、運命への呪いと懺悔、そして悔恨と後始末をドラマティックさを抑えつつ、しかし朗々と訴えるような演出は素晴らしいと感銘した。母親の気持を考えると本当にやるせない、唯々居たたまれないを感じさせる秀逸な作品であった。
只、フリオ・イグレシアス的メロディの楽曲は、日本で言うところの演歌的土着メロディなんだろうね。自分は馴染めなかったけど・・・