「ジャンルごった煮ヒスパニック映画」108時間 いぱねまさんの映画レビュー(感想・評価)
ジャンルごった煮ヒスパニック映画
ホラー、スリラー、サイコ、サスペンスといった多要素を放り込んだダイバーシティ作品・・・というのも変かな?自分の観方は、充分ホラー的要素、いわゆる“ビックリさせる系”の心臓に悪い内容の王道を踏んでいたと印象を持った。しっかりとBGMで不穏感を煽り、きちんと小道具で隠れている場所へ誘導させ、そしてそこを開けると結局何もない、と安堵と同時に、カメラフレーム外からの脅かしという、黄金パターンを繰り返すシークエンスは、好事家には涎モノのパターンだと思う。それに丁寧に伏線と回収、フリとオチを仕上げている点、不気味さを熟知してるであろう制作陣のチョイスする小道具の洗練さは、今作品を非常に真面目に制作した意志を強く感じさせられた。鑑賞後のネットでのネタ探しで、映画“インセプション”の近似点を挙げていたサイトがあったが、確かに寝ている夢と寝ない事での幻想は、もしかしたら人間の脳の働きとして同じなのかもしれないと医者ではないから安易に言えないが、麻薬物質が脳を支配するイメージとして同一視してしまっているのは否めない。
4日と半日寝ないなんてのは自分の今までの人生の中では決して体験したことがない、否、してみたいとも思わないが、本能の行為で食べること、生殖行為をすることに比べると比較的文字通り五里霧中のところが大きい行為である。しかも断食ならぬ断眠という、おいそれと実験できない或る意味神秘的な匂いも手伝って興味深いキャッチーさがある。
ストーリー内容も日本人に親和性が高いんじゃないかと思う。演劇の世界という舞台設定も映画“Wの悲劇”を思い出すし、展開が進んでいく中で、メタ構造としての構成がラスト前で行なわれる芝居(急に主人公の髪型がショートになっているカット替に違和感を感じたのはそれが原因)、そして観客だけでなく、演出家さえも騙した演技力を裏付ける主人公の“クセ”を回収する脚本と演出。緻密さをひしひしと感じさせる。主人公の父親がどこかで絡んでくるのかと思ったがそこは無かったのが拍子抜けであったが、何となく、続編を感じさせるようなラストで括る辺りはニクい演出であると好意的に感じた。「憑依」させる仕業も、なんとなく日本の“きつね憑き”とイコールだし、ジャパニーズホラーを踏襲したようなイメージを強く感じたのは自分だけだろうか。
主人公以前に同体験を施された元女優の行動や、パン窯の使い方、特に、4.5日も寝ていない状態の顔つきや身体の疲労感の伝達不足等、幾つかもう一捻り工夫を要望したいが、とにかく丁寧な仕事に敬意を贈りたい作品であった。