「締切日に無理やり完成させたレベルの作品」劇場版おっさんずラブ LOVE or DEAD ほわいとたいがあさんの映画レビュー(感想・評価)
締切日に無理やり完成させたレベルの作品
私がこの作品のドラマ版のファンであったことを抜きに、映画作品として純粋に評価してみました。
この映画のコメディの部分での役者達の素晴らしい演技を素直に賞賛したいのですが星は一つだけ。
その理由は以下の点から成っています。
まず第一に、主人公春田の人間的魅力が伝わらなかったという致命的な欠陥です。
ドラマ版では登場人物の魅力が丁寧に演じられていたので、ドラマ版視聴済みの観客は彼の魅力を先に知っています。
しかしこの劇場版が初見の場合、果たして春田というキャラクターは魅力的に映るでしょうか?
帰国したその日に恋人の元にすぐに帰らず飲んできてせっかく作ってくれた食事を冷ましてしまう春田、恋人の仕事や置かれている状況を理解する努力もせずいじけた言動をする春田、コミュニケーションをとって修復を図ることもせず簡単に別れると言って牧を試すような感情的な性格の春田……
随所に春田の素直で可愛い描写はあるものの、それはドラマ版を視聴済みの我々が脳内で補える春田のキャラであり、劇場版のみの鑑賞だけでは主人公春田はドラマの時ほど魅力的ではありませんでした。
また春田のみならず、恋人の牧についても同じく彼の魅力が伝わりにくい演出で残念でした。
牧は春田の帰国一週間前までは同じ営業所勤務だったにもかかわらず、プロジェクトの極秘事項だかなんだか知りませんが春田の営業所にとって大変になるであろう問題を誰にも全く伝えていません。春田のみならず営業所の仲間ともコミュニケーションを取らない牧というキャラは冷酷に映るので、ここでもまた観客は牧に感情移入がしにくいため、なんだか魅力が伝わってこない主演2人のやりとりを見せられるという残念な流れになってしまいました。
第二に、勤務先の不動産会社のプロジェクト内容が杜撰過ぎな点です。
名の知れた不動産グループがたった1ヶ月であれだけの広範囲の土地を制覇するトッププロジェクト?は?ありえません。
ジーニアス7とかいう社運をかけて作られたチームの選抜メンバーが、わざわざ連絡なしにイチ営業所に足を運ぶ?は?ありえません。
あんなチープな演出をして、「牧と狸穴はエリート」だと言われても観客の普通の社会人は全くそう思えないでしょう。子供騙しも良いところです。
100歩譲ってコメディ要素が強いドラマ版でならあの演出は許せますが、劇場版で1900円払って観に来た観客に対しては失礼レベルのお粗末さ。ストーリーの大事な要素なんだからもっとちゃんと練ってこいと脚本家に喝を入れたくなりました。
さらにはプロジェクトの共同出資の相手会社が実は反社会で…のくだりで、社長の娘が監禁されているのを「世間にバレたら我々の会社にとってダメージになる」とかいう不自然な演出。人の命より会社?は?ありえません。
そういう強引な展開からの爆破シーン。なかなか燃え広がらず一酸化炭素中毒にもならず切迫するものが感じられない不思議な時間に、死ぬ覚悟なのかなんなのか、抱いていた想いを長々と打ち明ける春田と牧の会話に涙なんて出ませんでした。
第三に、物語の前半から牧の春田に対する想いがそれほど観客に伝わってこないため「想い合っている2人なのにすれ違ってしまう焦ったさ」のようなラブストーリーの重要な盛り上がりがなかったことです。
2人の恋がこじれる様子は物語の序盤からあったにもかかわらず、途中で急に花火に行くと約束してイチャイチャしたり、かと思えば指輪投げるほど喧嘩して、でも爆発で刺激されてあっさり仲直り…大事な2人の心の移り変わりの部分を省き過ぎていてて、劇場版のレベルにはとうてい到達しているとは思えませんでした。
随所に散りばめられたコメディ要素(サウナのシーン、小麦粉ふっ被るシーン、人工呼吸を奪い合うシーンなど)によって、一定の笑いがあるので、鑑賞中は結構笑顔にはなれるのですが、映画が終わってふと「私は1900円払ってこんな構成が杜撰でチープなコメディ映画を見に来たのか…」と愕然としてしまった、そんな作品でした。
主役の田中圭さん曰く、この劇場版で自分から手が離れた作品になったと言っていましたが、本当にそうして欲しいです。
これ以上、あの素晴らしかったドラマ版の評価を落とすようなやっつけ仕事のOL民ダマしの続編を作らないで…と切に願います。