「色々もったいない」劇場版おっさんずラブ LOVE or DEAD アズサワさんの映画レビュー(感想・評価)
色々もったいない
ドラマファンならそれなりに楽しめますが、消化不良な感は否めません。
テレビドラマの雰囲気や作り方を踏襲しつつ、映画ならではの醍醐味も入れなければならない、さらにはあれもこれも…とエピソードやアイテムを盛り込み過ぎた結果、この作品における大きな魅力かつ核でもあったはずの「繊細で丁寧な心理描写」が大幅に損なわれています。
製作陣の熱意も狙いも分かるのですが、やはり120分弱に無理やりおさめる内容ボリュームではなかったし、逆にきれいにおさめるなら何かをごっそり削る勇気や諦めが欲しかった(おそらく膨大にカットはしていると思うが、中身より尺優先に思えてしまう)。
そもそもお話の大部分が家と会社と飲み屋で成り立ってしまうという極小スケールの作品を劇場版にするということ自体がなかなかハードルが高いのですが、結果として「お金を払ってわざわざ映画館に足を運ぶファン」へのサービス精神が空回りしている気がするので何とも残念です。
以下に個人的に気になった細かい点を挙げます(ネタバレを含みますのでご注意下さい)。
①キャストやスタッフが見所として推していたので期待してた「サウナシーン」がそこまで面白くない
カット割りが少ないせいで冗長に思えるのか、ドラマでの部長と牧のつかみ合いのようなテンポの良さ、メリハリがなかった。アドリブ多用でわちゃわちゃすれば全部面白いって訳ではない
②親の登場の仕方が謎
出て行った春田の母がいきなり戻るのも、やれ倒れただの別れろだのがんばれだの言ってきて忙しない牧の両親も、あまりに飛び道具的・ご都合主義的に使われ過ぎて違和感がすごい。
せっかくドラマでデリケートな関係性を描けていたのにもったいない&どうせならムチムチ可愛い牧の妹も見たかった
③ジャスティスがいまいち不安定
今回ゲストキャラ2人は匂わせだけで結局恋愛バトルには参戦しないが、特にジャスティスは素なのか役作りなのか分からないレベルでフワフワして見えて、果たしてどっちなのかと無駄にやきもきさせられる上、シーンによって存在感が薄かったり急に濃くなったりと、良キャラのはずなのに何だかずっと座りが良くない。
さらに「家族の温もりに飢えてる感」の描写も必要最低限しかないので、投げやりな春田に憤る終盤見せ場のリアリティが薄く、上手く感情移入出来なかった(春田への恋愛感情はないことと家族を失った過去という二大ファクターを、ここでバタバタと一気にセリフで説明してしまう脚本も個人的に好みではなかった)。
そのせいでラストの結婚式もポカンとなる
④音楽やたらと使い過ぎ
主題歌も劇中の主要なサウンドもドラマ版そのまま、という作り方は非常に好感が持てる。しかし音がなくてもいいようなシーンにまで多用し過ぎて、ちょっとうるさかった
……完全完結とも取れるし、続編を作りやすそうとも取れるラストだったので、今度は勝手知ったる手法で心ゆくまで丁寧に作られた新作ドラマを見たいなと密かに期待します。