「なかなかにヒドイ」劇場版おっさんずラブ LOVE or DEAD はるこさんの映画レビュー(感想・評価)
なかなかにヒドイ
ドラマが好きだったので、取り敢えず観るのは確定事項だったんですが、なんか不安だったんですよね。そして、その不安は的中してしまった。ここまで観るべきところのない映画も珍しい。
深夜ドラマの続編を映画にするっていうのがムリあったのでしょうか。
映画だから派手にしよう、楽しめる要素を注ぎ込もう、という感じにしか見えません。結果としてあれもこれもと詰めすぎて、ストーリーさえまともに見えない作りになっています。
とくに武蔵の描かれ方がひどくて、ドラマでも武蔵のやってるのはパワハラ、セクハラだという批判もあったけど、蝶子さんとの関係を丁寧に描くことで、武蔵の心の中も見えて「そういうこともあるかも」と思えたものが、映画では完全にアタマのおかしいパワハラ野郎になってしまっている。
春田も三十路にしては子供っぽい男の可愛さが、ただのトンチンカン男に。牧はそもそも出番があまりない。
コアなファンが細部の演出を楽しむのにはいいのかも。私はドラマ版でお話は終わったことにしておきます。
【9月7日。映画を観て2週間経って追加レビュー】
他の方のレビューなど読んで、なんだかんだとこの映画について考えていました。なんでこんなにツマンナイ映画になってしまったのか。
単発ドラマのおっさんずラブには牧は登場せず、ドラマも一貫してコメディ調で、それはそれで楽しく、映画が単発ものの続編だったら、ああいうのでも良かったのかも、と思います。でも連続ドラマには牧がいた。
おっさんずラブはコメディだけども、武蔵が50歳を過ぎて最愛の妻を捨ててまで春田への気持ちを貫こうとする姿も、武川が失った若い恋人を諦めきれない心情も、突然の離婚を切りだされてうちのめされた蝶子のプライドも、観ている私たちには痛いほど伝わる。笑える中にも、ああ、そうだね、それ、わかるよ、って言いたくなるような登場人物の心の機微に触れるシーンが散りばめられている。
そして牧。
まだ若い青年が、好きになった相手に一度は真っ直ぐに気持ちを伝えたものの、自分はゲイだから相手を幸せにはできないのではないかと悩み、身を引く。でも武蔵が春田に捨て身で向かっていく姿を観て、自分は臆病で傷つくのが怖かったんだ、とも気づく。
林遣都の演じる牧凌太は、抑えた演技でそれを余すことなく伝えてくれていたと思います。
ドラマで牧が春田に別れを告げるシーン。
「春田さんなんか好きじゃない」と泣きながら言う姿は「大好きだから離れたくない」と本当は言っている。
牧の抱えている苦しみ、悲しみは、本当に見ている方の胸が痛くなる程伝わってくる。
どうにもならないことってあるし、死ぬほど辛いけど、生きてかなくちゃいけないよね、って、牧の涙を見ておもったりもしてました。個人的には。
そういうものが映画には一切なかった。
春田と牧が火災現場に取り残されたシーンで、春田が牧に切々と愛を語るシーンもあったけど、なんか安っぽくて、しらけてしまったのは、あまりにも延々と続くドタバタシーンの後に取ってつけたようで、春田の心情というのが見えないんですよ。そもそも爆発は要らなかったよね。
確かに連続ドラマ自体が、全体としてバランス良くはなかったとは思います。コメディとして始まったものの、5話あたりからコメディじゃなくなってきた。武蔵やマイマイやマロが時々入れてくる笑えるシーンや春田の変顔はあったけど、全体としては牧の涙にのまれてしまっていた。それを思えばそもそも映画化が難しいものだったのかも。林遣都が凄すぎたのか。でも林遣都じゃなきゃ、こんなに愛されるドラマにはならなかったろうな。