「彼女が誇りを感じる時が来るように」ナディアの誓い On Her Shoulders KinAさんの映画レビュー(感想・評価)
彼女が誇りを感じる時が来るように
ISISの過激な行いやその目的、中東の宗教事情や情勢について今まで何も知らなかったし知ろうともしていなかった。
被害者、逃亡者の実情がどんなものかなんてもってのほか。
先日「バハールの涙」という作品を観た後に、この事についてもっと知らなければならない、との思いに駆られて鑑賞。
ナディア・ムラド・バシ・タハという同世代の女性を「ISISの被害者」として知ってしまったことが悲しい。
同じ学校に通っていたら二つ上の先輩か、なんて考えると彼女を少し近くに感じて、それがまたやるせない気持ちになる。
活動家という肩書きはひとまず持ちながら、そのことに納得せず一人の被害者として、仕事ではなく助けを求める行動として、声を上げ続けるその姿に終始涙が止まらなかった。
その身に起きた凄惨な体験、人前に立ち語ることで向けられる様々な視線、同胞の苦しみや願いを全て背負う重圧、名前や顔を出すことで危険に晒される環境、その一つ一つを考えるだけで私にはとても耐えられない。
時には弱音を吐きつつ、それでも訴え続ける彼女は強い。
「でも、それもいつまで持つか」と言ったムラド氏の言葉が印象的だった。
ムラドをはじめ、ナディアの活動を支える人々の真摯な表情に少しホッとする。
ギリシャのルイス氏、今後の道を語る熱があまりにグラスを倒しまくるのがちょっとコミカルで好きだった。
語る内容はシビアだけど正しい。
沢山の人の想いを乗せたスピーチを聞いて心の動かない人がいるだろうか。
色々な媒体のインタビューで聞かれるその被害の細かい内容について、この映画内ではその答えはカットされている部分も多い。
それよりナディアの目的やその活動にスポットを当てている。
しかし部分的に拾えるその実態があまりにもキツくて精神をえぐられた。
今なお続くISISの支配地や、その他の戦争や紛争の現場でも同じようなことが起きているかと思うと辛くてたまらなくなる。
宗教や政治の理由でなぜ人を殺さなければならないのか、なぜ人を陵辱しなければならないのか、全然わからない。
私が普通に生活している間に迫害され死んでいく人たちのことをどう思って生きていけば良いんだろうか。
知ってしまったことは消せない。
でもだからって私に出来ることって何だろう。
発信力も無ければ影響力も無く、お金も無い。
もし日本が難民の受け入れを開始したら、その決定に心から頷くことができる自信が無い。
自分の無力さと自己意識に苛まれて今とてもしんどい。
ISISの支配地が狭くなっているというニュースを先日目にした。
詳しくはわからないけど、おそらく状況は日々一進一退だと思う。
それでも過激派組織が戦争犯罪の正しい裁きを受け、被害者の人々が平和に過ごせるように。
笑顔がぎこちなく、涙も多いナディアがいつか自分自身に心から誇りを感じる時が来るように、世界が動くことを願うしかない。