「キツイなぁ、過去の自分に責められるってことは…」新聞記者 kazzさんの映画レビュー(感想・評価)
キツイなぁ、過去の自分に責められるってことは…
邦画としては久しぶりにハードな社会派サスペンスだった。
物語の軸となる政治的陰謀は荒唐無稽なのだが、実在の事件を模した話題を流すことでリアリティーを感じさせている。
ネット討論番組(?)で望月衣塑子さんや前川喜平さんご本人たちに語らせているのは、ドキュメントっぽく見せる効果より、彼らに批判的な層を逆なでして煽る効果の方が高いだろう。
それを狙っているのかもしれないけれど。
この映画は、二人の主人公を終始シンクロさせて見せる演出がうまい。
新聞記者・吉岡(シム・ウンギョン)と若手エリート官僚・杉原(松坂桃李)が、異なる場所でパソコンに向かっていて、二人は例の討論番組を見るでもなく流している。
この導入部のシーン以降、何度か二人を同時進行で見せるシーンがある。
特に、吉岡が新聞社内で上司・陣野(北村有起哉)から、父親の事件を引き合いに出されて会社上層部に圧力がかかっていると告げられる場面と、杉原が上司・多田(田中哲司)の部屋で、もうすぐ子供が生まれる家庭を暗に盾にして脅される場面が交錯するシーンは、息苦しくなるほどの緊迫感があった。
一転、ラストではこの二人はシンクロせず、片方が遂に体制に屈してしまうという展開が衝撃的だ。
画面は全編ブルーグレー調のフィルターで色彩が抑えられている。
無機質に白で統一された内閣調査室の内装が薄暗い中に蒼白く不気味に浮き上り、この内閣調査室自体が魔物のようだ。
また、真上からのカットを多用したり、時に画面を横転させたりしているのも斬新だった。
携帯電話で会話している杉原と先輩官僚・神崎(高橋和也)を真上から対照の構図で見せ、死のうとしている者と制止しようとする者を張りつめた緊張感で見せている。
望月依塑子さんのノンフィクションを「原案」としている限り、現内閣批判の目線がなくはないのだろう。
ただ、物語は完全なフィクションであって告発的な意味は持たず、あくまでエンターテイメントだ。
内閣調査室という得体の知れない組織に目をつけたのが正解だった。
新聞社のリアリティーと内閣調査室のナンセンスの組み合わせを背景に、サスペンスを展開する緊迫の演出が見事としか言いようがない。
また、演技陣が皆素晴らしい。
特に悪役の田中哲司は、無表情に圧力をかける姿が堂に入っていて、実に恐ろしい。
この映画で一番の強烈なキャラクターだ。
主演の二人は共に熱演。
シム・ウンギョンは、執念に燃える記者をむしろ静かに演じ、韓国映画ではあまり見せないシビアな一面を出している。
松坂桃李は、戸惑い、怒り、後悔、決意、そして破綻していく複雑な感情変化を見事に体現している。
杉原の妻(本田翼)があまりにも健気でか弱いがために、追いつめられた杉原が屈服するのはやむを得ないように見えた。
吉岡は尊敬する父親が非業の死を遂げており、劇中では家族が描かれない。
天涯孤独で失うものがないように見える。
自殺した官僚に父親の無念を重ね合わせているのだろう。
神崎の妻(西田尚美)は夫の苦悩に気付いてやれなかったことを悔やみ悲しむ。
体制の言いなりになって自己矛盾に追いつめられた神崎。
体制に立ち向かおうとして屈した杉原がこの先歩む道には、今度は神崎と同じ苦悩が待っているだろう。
「キツイなぁ、過去の時分に責められるって…」は、杉原と旧交を温めているときの神崎の言葉だ。
そして別れ際に言うのだ「俺のようになるなよ…」
生き方、それぞれですね。
三人三様ですが、神崎の生き方が真っ直ぐ過ぎてもったいなく、
二度とこんな人を作ることのない社会であり国でなければならないですね。お陰様で神崎に目を向けることができました。
神崎はどう生きれば良かったのだろうかと考える起点となりました。ありがとうございました。
こんばんは♪
共感コメントしていただきましてありがとうございました😊
🌻内容はファンタジーでハードな人間サスペンス、
そうですね。神崎の真っ直ぐな生き方、吉岡の父の真実、杉原の官僚として板挟みになる
素晴らしい❣️
レビューをありがとうございました😊
色々撮影の目線も考えてご覧になっておられるのですね。
何回も観たわりに気づかない自分ですが。
今後ともよろしくお願いいたします🤲