「精密な画面設計と作家性が生み出す圧倒」ザ・ライダー Pegasusさんの映画レビュー(感想・評価)
精密な画面設計と作家性が生み出す圧倒
ただただ文句なしに素晴らしい。
暫くは、この作品の深い余韻から抜け出せそうにない。それくらい胸に響き心を打たれてしまった。余韻に浸りながら今、泣きそうな自分がいる。
ロデオ。それはたった8秒間、暴れ馬に乗るために命を賭ける競技。
幼い頃から夢見ていたカウボーイは落馬し頭蓋骨を骨折。後遺症を無視しながらも続けようとするが症状は深刻化。夢と現実の狭間で揺れ動くカウボーイの姿を、自然の雄大さと生命の儚さと共に静かに描いた。
どこかドキュメンタリーっぽさを感じる撮影と編集。常に主人公を焦点にしているので、微妙な表情や仕草から感情が伝わってくるようになっており、主人公と共に、笑い、苛立ち、悩み、涙することが出来る。
かなり突き詰めた脚本で胸糞展開も多く、ドキュメンタリー調ということもありラース・フォン・トリアー監督作品、特に『ダンサー・イン・ザ・ダーク』と似ているように感じたが決定的に違うところがある。
それは「人間の描き方」
映画というフィクションの場合、どうしても完全な悪という役を与えられるキャラが登場するが、この映画は違う。
ある時には悪役になり、ある時には頼れる奴になる。そんな矛盾だらけで面倒くさいリアルな人間を、愛情を感じるほど丁寧に描けているものだから、よくある「観客を泣かせる為のシーン」がごく自然で主張も激しくないのでシラケることも無い。なのに心にグイグイ響いて自然と涙が溢れてくる……
思い返しながらこの文章を書いてるだけでも何かが込み上げてくる。
『夢を諦めるな。』そんな陳腐な言葉に泣かされる日がくるとは思わなかった。
この感動はモデルとなった人達が実際に演じているからこそ成せた業だな。
太陽と荒野の美しい画面設計、全てが考え尽くされた脚本。精密に計算されたありとあらゆる要素を主張もなくポンと出してしまうクロエ・ジャオ監督、素晴らしい才能だ。