運び屋のレビュー・感想・評価
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きっかけが無いと・・・
老いのリアルを丁寧に。戦争に行ったプライド、金も名誉も欲しいし、なめられたくない。仕事にかける現役刑事たちのギラギラしたハリつやが、老いてもなおの姿を際立たせます。記事に着想を得て?のこの奥行きの持たせ方、さすがの仕上がりです。
最高のロードムービー
面白がりたいが。
これぞ哲学
人に歴史あり。誰しもそれぞれが生きた時代に翻弄されながら、その中で様々な葛藤と成功と挫折を繰り返し味わうものだ。日常の何気ない習慣はその人物を形作ってきた過去のエッセンスを物語る。カーオーディオから流れる音楽、女性にもギャングにも自然体で放つ軽妙な軽口。そんなところからも、この老人の若かりし頃を察する事が出来る。
昨今の技術革新速度は目覚ましい。電子ガジェットは10年も待たず陳腐化するし、差別用語認定された言葉も差別の意図なく用いられていた時代もあった。
自分の生涯、半分以上を占めてきた常識を否定してまで、たかだか10年20年ぽっちの最近台頭してきた「新常識」に迎合する必要はあるのか?
ガンコ爺ィにはガンコ爺ィなりの気概があるのである。
昔はもっと縦の関係であらゆる世代と親しく話す機会があった。
かつて歳の離れた友人や先輩であった彼らは、今や60代、70代のガンコ爺ィになった。けれど、若い頃に彼らから伝え聞いたバックボーンの時代背景を知っているから、彼らの言動を奇異だとは思わない。今の若者の目にどう映るかは知らないが、老境の悟りに到達すれば、周囲のまなざしに臆する必要もないだろう。
しかして、齢80、90に達しても葛藤の選択を迫られ続けるのが人生というものらしい。主人公は壊れた(壊した)家族関係の修復を選んだ。犯罪に手を染める事になっても。
クライムサスペンスだが、非常に「静か」である。興奮もアクションも不要なのだ。もはや、そんなものは主人公の心を波立たせはしない。彼の心を揺らすのは家族達の想い、ただそれだけなのだから
アプローチはまるで違うが東京物語がよぎった。これは「イーストウッド流東京物語」である。
切なく哀しく、そしてハートフルでもある。喜びも悲しみも、すべてが穏やかだ。
それにしても、子供時代のヒーローは幾つになろうとヨイヨイになろうとカッコいいもんはカッコいいのである。
視聴後、数十年ぶりに44マグナムの刑事に会いに行った。どうやら映画というものはタイムトラベル機でもあるらしい。
シンプルなメッセージ
見上げた老人
ラストシーンでデイリリーを植えるアールの後ろ姿 それは2020年のアメリカの後ろ姿なのです
愛してるメアリー
昨日より今日の方が?
明日はもっとだよ
第1回目
カーラジオから宗教の時間
イエスは迷える人を救うために来た
局を変える
お気に入りのオールディーズが流れ出す
思わず一緒に口ずさむ
君を愛してる
昨日よりも今日
今日より明日はもっと
Spiral Staircaseの「モア・トゥデイ・ザン・イエスタデイ」という曲
白人男性5人組、1969年ビルボードの12位まで上がったヒット曲
ちょうど50年前
アールは40歳だった
ベトナム戦争たけなわ
しかしアメリカは絶頂期だった
外で認められるほうが、ずっと大事だと思った
家での俺は役立たずだから
アール、メアリー
縮めて読むと何となくアメリカと聞こえ無くもない
つまり、アールとメアリーはアメリカの戦後そのものだった
世界の為にとがむしゃらに働いて、戦った
でもそのために国は疲弊してしまった
今のアメリカは老人になったアールとメアリーのようだ
偉大なアメリカ
そんなことメアリーも娘も孫娘も求めてなんかいなかった
家族の為に尽くしてくれる父、平和で安穏な暮らしであれば良かった
もう昔のように羽振りの良い事はできない
だけども見栄は張りたい
周囲の者が困っているなら援助してやりたい
そのためになら多少怪しげな仕事でも金になるならと手を出してしまう
これはヤバいと思ってもまあいいかと目をつむる
気付けばドップリ浸かってもう抜け出せない
単なる老人の物語なんかじゃない
これはアメリカの半世紀の物語だ
アールとはアメリカそのものの暗喩だ
デイリリーの花言葉
「憂鬱が去る」や「苦しみからの解放」「憂いを忘れる」などです
アメリカは今や老いました
憂鬱であり、苦しんでいます
正に2020年のアメリカ大統領選挙はそれです
そしてコロナ禍に蝕まれています
勝ったのはバイデンと言う老人
どこかクリントイーストウッドに似ています
彼は偉大なアメリカを取り戻すとは言いません
しかし、外で認められる事が大事だと言っています
トランプの方がメアリーの望むことを言っているように思います
バイデンはアールのようなアメリカに戻すと言っています
現実の今のアメリカは、麻薬や暴力に満ちてしまってます
外国人達が、ますますいいようにアメリカを利用し蝕む一方なのです
メキシコの屋敷でのシーンは、クスリ、女、暴力で大抵の人間は言いなりにされてしまうことを説明しています
若者達は彼らに取り込まれて転落するか、彼らを取り締まることに忙殺されてしまっているばかり
しかもネットに依存して自分の頭で考る力を失っています
言葉尻だけ政治的に正しいのかだけを問い、本質に目を向けることを忘れてしまっている
パンク修理のシーンはそういう意味だと理解しました
アメリカの理想だった未来に目を向けている若者なんかもうどこにも居はしないのです
もしかしたら、アメリカの理想なんて、メアリーの様に埋葬されてしまったのかも知れません
それでも思わず一緒に口ずさむ
アメリカを愛してる
昨日よりも今日
今日より明日はもっと
ラストシーンでデイリリーを植えるアールの後ろ姿
それは2020年のアメリカの後ろ姿なのです
アールの着ていた衣装は特典映像で、過去の出演作で彼が役の中で着ていたものばかりだと知りました
クリントイーストウッドが出演した様々な映画
それを振り返ってみるとアメリカの半世紀も思い返されてしまう
そのような効果を狙ったのだと思います
若い時に着ていたであろうスーツはお洒落で生地も仕立ても良いものです
2007年のリーマンショックとネット販売に押されて農園が差し押さえになってからは、安物の量販店のカジュアル衣料ばかり
大阪、東心斎橋にある、とある馴染みの音楽バー
少し前ひさびさに行ってみると、Spiral StaircaseのアナログLPレコードをJBLのスピーカーで鳴らしていました
この曲「運び屋」で掛かっていたんです
いい歌でしょ
それをこのバーのマスターから教えてもらいました
お嬢さん方、会場を間違えてますよ
美人コンテストの会場は3階ですよ
そんな軽口を言える老人に成りたいものです
アールとメアリーの物語
それは日本にも多少翻案すれば、そのまま当てはまるのかも知れません
日本版リメイクを作るべきだと思いました
90歳の運び屋
節目の1400作、大好きなイーストウッドで。 我がヒーロー、近年は...
考えろ
スクリーンの中の90歳の クリント・イーストウッドと、麻生太郎や松本人志を隔てるもの。観ながら考え続けていたのだけれど、身もふたもないけれども、想像力なのだと思う。もちろん前記のおふたりにもまだ時間はたっぷりある。僕にだってあるはずだ。
LGBTって言葉が浸透したのもつい最近だと思ってたのに、いつの間にかそれにQがついてたりして、この世界のグラデーションの細分化の速さについていけない。
それがアメリカ南部の90歳男性、朝鮮戦争に従軍した退役軍人ならなおのことだろう。
見ず知らずの困っている他人を人種差別的呼称で呼びながら、いまどきの若者はやれやれと助けてあげる老人は、人種差別主義者なのか? 90歳になっても女性をモーテルに呼び出しデレデレと遊ぶ男性は、やっぱり女性蔑視のスケベジジイだろうか。それとも色男だろうか?
考えろ考えろ考えろ。
どれだけ努めて想像してもたどりつけない、当事者の知覚と思考と感情に少しでも近づこうと、脚色や演出を慎み深く研ぎ澄ました先に、表れ出るのが「生きろ」というリアリズムなんだと思う。
グラン・トリノのイーストウッドも朝鮮戦争の帰還兵だったな。ハートブレイク・リッジからもう30年以上経つのか。ソウル五輪からも30年。朝鮮半島が30年後どうなってるかなんて、想像したこともなかったな。鈴木大地が大臣になってるなんて。ましてや北朝鮮に核兵器とミサイルがあるなんて。
久しぶりにスクリーンに立てば、相変わらずのオレ様ぶり。ダーティー・ハリー。やっぱ最高だよ。
(オマケ)撮影監督はイーストウッドとの初めての仕事だったそうですが、何者?とググらずにはいられない秀逸な仕事ぶりです。
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