「USA版人情話」運び屋 いぱねまさんの映画レビュー(感想・評価)
USA版人情話
もしかしたらクリント・イーストウッドの作品を観たのは初めてかも知れない。勿論、ダーティハリー・シリーズは知識では知っていたが、吹替えの故山田康雄氏のイメージが強すぎる印象しかない。
そんな訳でかなり癖のある俳優の演技がもしかしたら最後かもしれないとの触込みで鑑賞した。
確かに、ハリウッド的な人情話を感じる。家族を顧みない男が世情から遠離ってしまうことで命より大事な仕事から弾き出され、ダーティーな頼まれ事を金のために引き受ける内に、家族との真の邂逅に向かうという、世界中でよくある話ではある。それをハリウッド特異のウィットに富んだ味付けを塗しながら、そこそこのサスペンス要素も挟んでの仕上げとなっている。
主人公の男の狡猾さと度胸、そして年寄りの功ならではのアドバイス、しかしそこそこの社会性故の聞き分けの良さも兼ね備えている老人であり、人としての多重面を表現していることは、もしかしたら好き嫌いが出てしまう作品かも知れない。それは邦画的キャラ設定に近い要素が見えるからではないだろうか。一筋縄ではいかない主人公になかなか共感性を抱けない中での鑑賞は戸惑いも募ってしまう。とはいえ、現実もそういうものだ。幾ら家庭で頑固であっても、外面は柔軟性のある穏やかさを演じている人などdこにでもいるし、それは決して人格破綻ではない。そんな多層構造は、こういう映画でのいわゆる『神の視点』であるところの観客への表現として描かれることを、自然な演出として受け止めなければならない。そんなことを感じさせてくれる作品である。
ちなみに、朝鮮戦争帰りという、アメリカが常に強かった頃の時代の市井の人達の与えた影響を教えてくれることも大変重要な要素の一つであった。どんな人種であれ、やはり年齢を重ねた人の苦言は『良薬は口に苦し』だが、飲めばその重みに心が救われる、多くを学んだ作品であった。