劇場公開日 2019年3月8日

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「こんなポスターなのに実はほのぼのコメディ」運び屋 よねさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0こんなポスターなのに実はほのぼのコメディ

2019年3月1日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

家族も顧みず百合の栽培に人生を賭けてきたアール。離婚した妻や娘に愛想を尽かされてもなお仕事に打ち込むがやがて商売も立ち行かなくなり困窮していたところで孫の友人だという男に声をかけられ車を運転するだけという簡単な仕事を持ちかけられる。教えられた住所を訪ねて小さな荷物を載せて指定されたホテルの駐車場に駐車、1時間放置するとダッシュボードに大金が放り込まれている。こりゃあボロいと調子に乗ったアールは次々に仕事を請けるうちに積荷がどんどん大きくなって・・・ポスタービジュアルで勝手にシリアスなドラマだと思い込んでましたがこれが結構軽快なコメディ。実録ドラマを本人達に演じさせるという壮絶な変化球だった『15時17分、パリ行き』の次がこれかよ!?と巨匠の引き出しの広さに目眩がしました。

軽快なカントリーやジャズをバックにピックアップトラックで埃っぽいハイウェイをダラダラ走る感じは70'sに日曜洋画劇場でよく観た光景、巨匠の作品で言えば『ダーティファイター』とか『ピンク・キャデラック』みたいなトーン、これはめちゃくちゃ懐かしい。ギャングに銃を突きつけられても動じない退役軍人ならではのタフさと裏腹なトボけた優しさを見せるアールに周りの人達が感化されていく様はコミカルで微笑ましい一方で、なぜか家族とはギクシャクしてしまう不器用さが身につまされます。そしてアールの与り知らぬところでドラマは暗転し、『許されざる者』、『トゥルー・クライム』、『グラン・トリノ』や『人生の特等席』などの諸作で繰り返し表現してきた自身の贖罪を滲ませる終幕は巨匠の作家性が全開、実に温かみのあるキュートな作品に仕上がっています。

劇伴も巨匠の趣味が丸出しで、豊かなトーンのジャズナンバーの数々が気品を添えています。共演陣が豪華で、ローレンス・フィッシュバーン、アンディ・ガルシア、マイケル・ペーニャ、ブラッドリー・クーパーらの実力派がしっかり脇を固めています。実の娘アリソンが娘役を演じているところも注目すべき点ですが、本作で一際輝いていたのは元妻メアリーを演じたダイアン・ウィースト。家庭を顧みなかったアールを激しく拒絶しながらもそれとは相反する思いを吐露する演技が実にいじましくて魅力的でした。個人的にはなぜか家族で一人だけアールに懐いている孫ジェニーを演じたタイッサ・ファーミガも自分の孫にしたいくらい可愛かったです。

よね